新・特集シリーズ第3号<最終回> 未来を切り拓く! ~森川ジョージ先生に聞く「フリーランスに必要な対話力」とは~
2024年12月4日
特集公開日:2024年12月12日 by Wor-Q MAGAZINE 編集部
自身もフリーランスとして働いているWor-Q編集長の旦悠輔が、さまざまな業界のフリーランス当事者と対話をしながら、フリーランスの未来の「あるべき姿」を皆さんと一緒に考えていく新特集シリーズ「フリミラ!」。
最終回のテーマは「フリーランスに必要な対話力」。どうすれば、フリーランスひとりひとりが、自分たちの課題を自分たちで解決していくための<対話力>を高めていくことができるのか。漫画家の森川ジョージ先生にお話をうかがいました。
「週刊少年マガジン」(講談社)で1989年から連載が続いており、単行本は累計1億部を突破している言わずと知れた超人気漫画『はじめの一歩』で知られる漫画家の森川ジョージ先生は、「漫画業界の持続可能性を高めていくための業界内での対話」を続けると同時に、「漫画業界を超えた社会的課題解決のための社会全体との対話」、「異なる立場・業界の人達との対話」についても精力的に継続をしておられます。森川ジョージ先生ご自身は、現在は、フリーランスではなく法人として事業を営んでおられますが、クリエイターの先輩として、これまでどのような対話を重ねてこられてきたのか、その歴史と矜持をお聞きします。
はじめに ~なぜ、いま「対話力」か~
―――森川先生、本日はよろしくお願いいたします。本日は、「創ろう、フリーランスの未来」をキャッチフレーズに、対談・インタビューを通じて、フリーランスの働きかたの、その「あるべき未来の姿」を具体的に描き出していく特集「フリミラ!」の最終回として、森川ジョージ先生に、ずばり「対話力」についてお話をうかがわせていただきたいと思っています。

(森川)お役に立てたら嬉しいです。緊張しないで、フランクに話してくださいね(笑)。

―――ありがとうございます(笑)。なぜ、フリーランスの未来を考えていく特集「フリミラ!」の最終回で「対話力」についてお話をうかがわせていただこうと考えたかと申しますと、フリーランスを取り巻く課題について知れば知るほど、「フリーランスは受け身でいてはいけない」と思うようになったからなんですね。もちろん、弱い立場にあるフリーランスが、法制度や、さまざまな相談窓口や共済といった仕組みによって守られることはとても重要なことだと思います。ですが、究極的には、フリーランスが弱い立場のままであるのではなく、フリーランスひとりひとりが、おかしいことはおかしいと言えるようになり、闘いによって対等な立場を勝ち取っていくことができるような「強さ」を身につけていくことが大事だと思うようになったのです。当たり前ですけれど、「自分の課題を誰かが勝手に解決してくれるということはない」わけですし、まず自分自身が、相手と向き合って、「これが課題だ」と思うことを、時に周囲を巻き込みながら相手と積極的に対話していかなければ課題解決は進まないという当たり前のことに気が付いたわけです。とはいえ、「対話」をする、ということは、慣れていなければとても難しいことであるように思います。分かり合える仲間と「会話」をするのとは訳が違いますものね。「対話」。つまり、「意見が合わない相手とも、真摯に話し合い、信頼関係を積み上げ、相手を論破することを目指すのではなく、相手との合意可能点を見いだして、建設的な課題解決を目指していく営み」のこと。そうした「対話」を行うための力をどうすれば身につけていくことができるのか。常日頃から、インターネット上で、また、リアルな場で、「対話」を続けておられる森川ジョージ先生に、「どうすれば強くなれるのか」ということについて、お話をうかがわせていただけたらと思うのです。
(森川)話せるかな(笑)。まあ、なんでも聞いてください(笑)
漫画業界の中での対話の歴史について
▼「原稿料」をめぐって
―――ありがとうございます(笑)。では早速、森川先生が、漫画業界の中で、漫画業界を持続可能なものにしていくために重ねられてきた対話の歴史について、うかがわせていただきたいと思います。森川先生は、対話をされる際に、常に、「まずはじめに、ご自身が知りえる情報をオープンにし」、そこから、対話を通じて、「ひとつひとつ新しい情報を集めながら」、双方が納得できる形での着地を見いだしていく対話のプロセスを大切にしておられるように思います。その最も代表的なエピソードが、「原稿料値上げ」に関する対話のエピソードではないでしょうか。持続的な執筆環境、要するに、漫画を描くことで生計を立てていくために十分な報酬が得られるような状況をつくるために、漫画家がアシスタントに支払わなければならない報酬などから逆算して「最低限必要な原稿料」を提示して、出版社と交渉を重ねてこられた歴史がありますよね。そして、出版社に対して交渉を行うだけではなくって、森川先生は、業界の若手、新人漫画家に対しても、「漫画家のほうも勉強しなきゃだめだよ」「知識は大事だよ」「わからないことは聞かなきゃだめだよ」「出版社だけを一方的に悪にしちゃだめだよ」「互いに納得できるまでしっかり話し合うことが大事だよ」というようなメッセージを発し続けておられます。こうした対話を続けることは非常にエネルギーが要ることだと思いますが、森川先生は、どういう思いで、こうした対話をなされてきたのでしょうか。
(森川)どういう思いも何も・・・、僕、ナチュラルに(自然に)やってるんでね。どういう思いで、とか、ないんですよ(笑)。ひとつあるとするとね、僕は、理不尽なことが好きじゃないんですよ。もちろんね、純粋に漫画の仕事をやってる中では、理不尽なことなんてないんですよ。漫画の世界って、実力勝負だから。そして、そういう世界で仕事をすることを自分で選んだわけだから。本来は、仕事について、言い訳したりしちゃいけないんですよ。でもね、それでもね、仕事を続けてると、「おかしいな」っていうことが、ひとつふたつ出てくるんですよ。
―――「おかしいな」って思うこと、つまり、「理不尽なこと」が出てくる、と。
(森川)そうそう。「なんかおかしくない?」っていうこと。そういう時は、僕は、「おかしいよね」って言ってきたんだよね。でもね、まわりの漫画家や、若い漫画家が愚痴を言ってるのを聞いて、「じゃあ、言えばいいじゃん」って言うと、「言ったら干される」って言うんですよ。そんなことないから(笑)。言うだけならタダだしね。言ってみて、結果的に原稿料があがればラッキーだし、あがらなくても何も起きないだけだし。それだけの話なんですよ。なんでみんな言わないんだろうね(笑)。
―――「勇気のなさ」なんですかね・・・。みんな「不安」になってしまうんでしょうね・・・。
(森川)勇気なんていらないですよ!ただ単に、言えばいいだけなんですよ。だってね、新人の漫画家っていうのは若いですから。20歳そこそこですから。僕からみたら、子供ですよ(笑)。それで、言う相手は会社(出版社)のサラリーマンでしょ。相手は大人ですから!今時、「何言ってんだお前生意気だな」とか言わないですから(笑)。説明するシステムも整ってますからね。ちゃんと教えてくれますから。
―――ちゃんと聞けば、ちゃんと答えてくれるのに、勝手に疑心暗鬼になってるだけだ、と。
(森川)そうそう。ただ単に「原稿料上げてください」とかじゃなくて、ちゃんと計算して、ちゃんと説明すればいいんですよ。例えば漫画の世界だとね、スタッフ(アシスタント)を3人抱えて、最初のうちは、ひとりあたり月16~17万円くらい渡すとするじゃないですか。そうすると、だいたい、3人あわせて50万円くらいかかるわけですね。さらに、自分で自分の家賃払って生活していくとなると、だいたい、月にどれくらいのお金が必要かっていうのがわかるわけじゃないですか。計算すればわかるわけですよ。それで、原稿料が1万円だとすると、月に何ページ書かなきゃいけない、とか、月に何ページの連載だから、原稿料はいくらないと困っちゃう、っていうことを、ただ単に逆算していくだけですから。
―――たしかに、根拠をもってちゃんと説明すれば、相手もちゃんと受け止めて、対話してくれそうです。
(森川)そういうことですね。ちょっと待ってください、試しにさっそく計算してみましょう。まず、漫画家の場合は、原稿料はぜんぶスタッフに渡した方がいいよ、と、僕は言ってるんです。僕もそうしてるんですけど。で、週刊連載だと、月に80ページくらい書くんですけど、新人だと、月に80万円にしかならないんですよ。原稿料、僕の時代、1枚1万円でしたから。僕なんて、『はじめの一歩』が始まったとき、1枚7千円でしたから、1万円でもうらやましかったですけどね。そうすると、原稿料としてもらえる80万円から、スタッフに50万円を渡すと、手元に30万円しか残らないわけですよ。そこから、スタッフの食費から何からぜんぶ出さなきゃいけないわけですよ。そうすると、手元に残るものなんてないんですよ。要するに自転車操業ってことですね。これじゃだめだよ、一緒にやっていけないよ、っていうことを、編集部に言ったんですよ。これがね、1枚1万2千円くらいになると、そこそこやれるようになるんですよ。2千円の差で随分変わるんです。
―――森川先生がすごいなあと思うのは、やっぱり、お話にリアリティ、説得力があるところなんですよね。なんでかっていうと、やっぱり具体的な根拠なり計算があるからなんですよね。それをベースに会話されているから、互いに納得感のある対話ができるんだろうなあ、と感じます。
(森川)あたりまえの話ですよね(笑)。もっと稼ぎたい、儲けたい、ということじゃなくて、「これじゃあ無理だよね、やっていけないよね」っていうことなんですよ。それをちゃんと言ったんです。そうしたらね、当時は、僕が24~25歳くらいの頃、「はじめの一歩」が立ち上がった頃、だいたい1990年くらいで、バブル直後の頃だったんだよね。だから、その頃、雑誌社はお金があったんですよ。ちゃんと言ったら、「お金はありますよ」、っていう反応だったんです。
―――ちゃんと計算して説明することで、お互いの状況がはっきりわかって、着地点が見出せた、ということですね。
(森川)そうそう。でね、原稿料の話は、新人だけの悩みだけじゃないんですよ。ベテランにも悩みがあるんですよ。慣例として、原則、連載が続いていくと、毎年原稿料が千円ずつあがっていくんですけど、「2万円の壁」、っていうのがあるんですよ。連載開始から普通は10年後に2万円になるんですけど、漫画家のほうが、「原稿料が2万円を超えると高いから使ってもらえなくなるんじゃないか」って思うようになるんですよね(笑)。だから、原稿料を2万円~2万5千円くらいで止めてる作家がいるわけなんです。そうすると、「あの先生2万円でやってんだからお前も1万円でやれ」っていうふうになっちゃうわけですよ。だから、ベテランも、天井知らずで原稿料を上げていかないと、ってベテランの仲間には言っているんです。
―――自分や自分と同じ立場の漫画家だけの問題ではない、ということですね。
(森川)どの道ね、人気が出なくなったら、連載できなくなるわけですよ(笑)。原稿料が高かろうが安かろうが。だったら上げたほうがいいじゃん、ってことなんですよ(笑)。原稿料を安くおさえたから連載が続く、ってわけじゃないんですよ(笑)。人気があるから連載が続くわけだし、人気がなくなれば連載は続かない(笑)。それだけの簡単な話なんです。おまけにね、今時は、「少年ジャンプ」の新人は原稿料1万8千円からスタートになってるわけです。「少年マガジン」の新人も原稿料1万5千円からになってますからね。だからね、ベテランが2万円じゃ安い時代になってるわけですよ。昔のままじゃないんですよね。だから、若手の漫画家たちのためにもね、ちゃんと原稿料を上げていかないと。野球選手の契約更改と一緒だね。
―――森川先生は、「利他」という言葉を時折使っておられます。森川先生のご発言や行動からは、「自分のため」ではなくて、「若い描き手も含めて業界全体のために」という思いを強く感じます。
(森川)いやいや(笑)。僕なんて、そんな利他的じゃなくて、利己的なんだ。僕はね、ちばてつや(*)さんを尊敬しているんですよ。ちばてつやさんは、日本漫画家協会(*)で活動していてね、昔から文化庁とかによく行ってたんですよ。それでね、いまから10年ちょっと前、その頃、僕はまだ協会に所属してなかったんだけど、よく、ちばさんに会いに行っててね。ちばさんは、部外者の僕に議事録を見せてくれたりしたんだ。その頃すでに、ちばさんは70歳を超えてたからね。僕は「なんであなたがそこまでやるんだ」って言ったわけ。ものすごい献身的に業界のために尽くしてても、「漫画家協会の動きが足りない」とか「漫画家協会は僕らを助けてくれない」とかいう人達がいるのを知ってたからね。そんな人達のためにあなたがこんなに苦労する必要ないでしょ、って言ったわけ。そしたらね、ちばさんが、「でも、じぶんは漫画界に恩があるから。後ろから来る人が少しでも歩きやすいように、小石をのけてるだけだよ」って言ったんだ。名言だよね。自分は、ちばてつやを目指してここまで歩いてきましたから。人格も、ちばてつやを目指そう、と思ったわけ。ちばさんが言ってることを理解したいな、と思って、僕は、真似してるんだ。ぜんぶ、ちばてつやのおかげなんだよ。

*ちばてつや|『あしたのジョー』(原作:高森朝雄)『あした天気になあれ』などで知られる日本を代表する漫画家。日本漫画家協会会長。2024年10月25日、漫画家として初めて文化勲章を受章。
▼さらに開かれた「漫画家協会」を目指して ~なぜ「問い合わせフォーム」を新設したのか~
―――森川先生が、利他的に、業界全体のことを考えて活動しておられるのは、ちばてつやさんがおられたからなのですね。それで、森川先生も、日本漫画家協会に入会された、と。現在は、森川先生も、日本漫画家協会の常務理事のひとりとなっておられますね。
(森川)日本漫画家協会ってすごいんですよ。協会入ったらビックリしましたよ。ほんとにね、もう、利他しかないんだもん(笑)。ぜんぶボランティアなんだもん。でもね、それなのに、「漫画家協会の動きが足りない」「漫画家協会は自分達のことを助けてくれない」って言われるわけ。どこまで甘いんじゃ!って思いますよ。
―――こんなにも利他的に活動しておられるのに、非難されるのは辛いですね。それでも、それなのに、つい先日、2024年5月に、日本漫画家協会のWEBサイトに「お問い合わせフォーム」が新たに設置され、日本漫画家協会は、いままで以上に開かれた協会となられました。その姿勢がすごいな、と思いました。
「協会WEBサイトにお問い合わせフォームを設置いたしました。」
日本漫画家協会|お問い合わせフォーム|入会について/入会後の事務連絡について
日本漫画家協会|お問い合わせフォーム|契約・法律について/税金にまつわること/その他
※日本漫画家協会の会員限定
(森川)ドラマ「セクシー田中さん」を巡る一連の出来事が起きた時に、漫画界がざわついたんです。漫画家さんって、ナイーブな方、多いですから。「自分もそういう仕打ちをうけた」「辛い」「死にたい」みたいな反応の人が多くてね。希死念慮にとらわれてしまうような方が多いんですよね。それで、不幸なことが起きないように、せめて、漫画家協会の会員だけでもなんとかしたい、と思って、いま国会議員やってる常務理事の赤松健と、「うめ」という名前で活動している同じく常務理事の小沢高広くんが中心になって、「悩み相談箱」みたいなイメージで、問い合わせフォームを設置したんです。そうやって、漫画家協会の会員だけに絞ってるのは、誰でも、っていうと、こちらで対応可能な枠を超えてしまうので。実際、月に2件くらいしか来ないかな、と思っていたら、結構な数の相談が来て、びっくりしましたよ。法律関係の問い合わせとかも入ってくるんですけど、そうしたものについては、プロボノの団体を紹介したりして、解決につなげていったりしているわけです。
―――森川先生は、常々、ご自身のX(Twitter)公式アカウントでも「漫画家は孤独になりがち」と書いておられます。ドラマ「セクシー田中さん」を巡る一連の出来事が起きた時、森川先生は、何もできなかった、という意味で、「行動力の無さをずっと悔やんでいます」と書いておられました。日本漫画家協会のWEBサイトに「問い合わせフォーム」が新設された背景には、「せめて話せる相手がいれば、状況は変わったんじゃないか」「もっともっと相談の窓口が開かれていれば」という思いも、あったのでしょうか。
(森川)そうですね。進行形で動きを見ていたので。大変悩んでおられるな、とは思っていたのですが。とはいえ、知り合いでもなかったですし、直接声をかけるわけにもいかないですからね。向こうから相談されたわけでもないですしね。おせっかいはできないわけですから。そうしたら、ああいうことになってしまって。「うわー、声をかけておけばよかったな」って思いましたけどね。とはいえ、どうにもできなかったな、とも思いますし。―――この業界では、こうした問題は、よく起きることなんですよ。だけど、問題の解決の方法がわからない人が多いんだろうな。だけど、聞かない人が多いんですよ。聞いてよ!って思うんですけどね。
―――相談することで、きっと、具体的な解決につながっていきますものね。森川先生は、ドラマ「セクシー田中さん」を巡る一連の出来事が起きた時、「負の連鎖を止めたいんだ」とおっしゃっておられました。不買運動とかしてどうするんだ、と。あの会社が悪い、とか言って、責めて潰そうとするのではなくて、建設的に、具体的に、問題が起きてしまうような状況や構造を変えていかないとダメだ、というスタンスを取っておられました。
(森川)何か問題が起きた時に、事実と感情を分離できない人が多すぎるな、って思っているんです。感情的に、あの会社が悪い、とか思ってしまうのは、気持ちとしてはわかるけどね。でもね、実際ね、事実として、具体的に、その出来事に実際に関わっている人って、少ないわけじゃないですか。たとえば講談社という会社には全部で1000人くらいの規模の人間がいるわけですけど。その中で、僕(森川ジョージという漫画家)に関わっている人って、おそらく20人くらいしかいないわけですよ。だから、たとえば、僕のまわりで何か問題が起こった時に、僕のまわりで僕に関わっている人は実際には20人くらいしかいないのに、講談社という会社全体が悪い、講談社の本を不買運動しよう、っていうふうになってしまうと、それはおかしいわけじゃないですか。それって、他の作家とか、関係ない人たちにも迷惑かかることになっちゃうわけだしね。だから、事実と感情を分離しましょう、と言ったんです。
―――「事実と感情を分離する」。対話する際の重要なポイントですね。もうひとつのポイントとしては、森川先生は常々、本来は個別的で具体的な話であるはずのものを、「漫画家というものは」とか「出版社というものは」とか「アニメ業界は」とか、主語を大きくして雑に話さないようにしようぜ、と、いうことも、よくおっしゃっておられますよね。個人個人、具体的な人間同士の一対一の話じゃないか、と。それを、「あの業界とあの業界のぶつかりあい」みたいな論調で話し出すから、焦点がぼんやりした「単なる潰し合い」になってしまって、建設的な話になっていかないのだ、と。そういうことを、いろんな局面でお話してらっしゃるな、と思っておりました。重要なポイントを示していただきありがとうございます。
▼契約をめぐって ~「慣例」を問い直す~
―――続いて、漫画家さんが各社と取り交わす「契約」についてお話をうかがわせていただければと思います。森川先生は、「電子書籍」という形式が世の中に生れたばかりの頃、「はじめの一歩」を電子書籍として読めるようにはされませんでした。数年を経て、コロナ禍を契機として、「はじめの一歩」を電子書籍として読めるようにすることについて、OKを出されました。その過程においては、気になる点をひとつひとつ話し合って解決していかれた、と聞きます。具体的に課題を解決しながら契約における「納得感」を得られるところまでもっていかれたところがすごいな、と感じます。
(森川)フリーランスって、そういうものじゃないですか。別に(有利な条件を引き出すために)「交渉」したいと思ったわけじゃなかったんですよ。「納得できなかった」だけなんです。僕は15歳から漫画業界に入っているでしょ。19歳のときはじめて(単行本が)出たわけ。その時、「慣例として印税は10%払います」というようなことを言われたわけです。部数についてはあんまり言えないんだけど、仮定で話すと、3万部くらいの部数で出たとしますね。そうすると、当時の単行本の販売価格が1冊350円だとして、10%だと35円が原作者に印税として入るわけです。そうすると、仮に発行部数が3万部だとすると、だいたい100万円くらいになりますよ、っていう感じなわけです。・・・でね、みんななんでここで何も思わないんだろう、って僕なんか思うんだけど(笑)、僕は、「なんで10%なんだろう」って思ったんだよね(笑)。「慣例」っていうけど、それって誰がつくったんですか、っていう(笑)。慣例だから、なんて言って、じゃあなんでそれが当たり前に適用されるんですか、っていうね。それで、担当に聞いてみたんですよ。それって誰が作ったんですか、って(笑)。そしたら、「わかりません」って言うんだよ(笑)。慣例なんです、って(笑)。誰が作って、いつできたかもわからない、っていうね。なんでそれが当たり前のように適用されるのよ(笑)。それで、遡っていろいろ調べてみたんだけど、出版というものが始まった頃のことを調べてみると、名前は出せないけど、文筆家がひとりいて、さらに、出版社に、自分をあわせて10人いた、と。で、100を10で割って10%にしましょうって言って、決まったらしいのよ(笑)。しかもそれってね、ものすごい昔のことだったわけですよ。実際、僕の時代になると、どういう説明になっていたかと言うと、紙の本の販売価格の67%は原価なんです、と。紙の本を作るのに、紙代・運送代・倉庫代・印刷代、そうしたものぜんぶひっくるめて、販売価格の67%は原価としてかかるんだ、と。残りは33%なんだ、と。そのうちの23%が出版社、10%が作家さんなんです、と。ということは、出版社2:作家1になるわけです。とすると、まあ、条件的には、悪くない話なんですよ。だから、みんな、納得はできないけど、文句言ってこなかったんだな、って思ったんです。で、その時は、諦めたんです。そのあとに電子書籍の契約の話が出てきたわけです。僕らの世代が、電子書籍の黎明期に直面したわけです。電子書籍の世界では「印税」じゃなくて「料率」って言うんですけど、電子書籍の場合の「料率」は15%ですよ、と言われたんです。紙の本の場合の「印税」は10%ですから、率がいいですよね、って、平気で出版社は言うわけですよ。いや、ちょっと待てよ、と(笑)。そりゃ原価はどうなんだ、と(笑)。電子書籍作るのにいくらかかってんの、っていう話ね。紙の本の原価は67%だったわけだけど。電子書籍は原価かかってないですよね、話し合いましょうよ、と。だって、電子書籍の黎明期に直面したわれわれが決めたことが、後々まで残るわけですよ。ここでちゃんと決めておかないと、後々の新人に、「なんであのとき先輩たちは文句言わなかったんだ」って言われるだろうなあ、と思ったから、文句言ってみよう、って思ったんです。納得がいかなかったんです。ちょっと筋が通ってないんじゃないの、と。
―――「慣例だから」と言われたり「いい条件ですよね」と言われたりして、それをそのまま受け入れるんじゃなくて、「どうしてこれはこうなっているのか」ということをちゃんと確認して、対話をしていくことで、納得のいく契約になっていく、ということですね。森川先生は、このような対話を進めていく際に、よく、X(Twitter)等を通じて、「どうしてこれはこうなっているんだろう」「何か知っている人はいますか」と、「はじめの一言」を発しておられます。そうすると、X(Twitter)等を通じて、いろんな人からいろんな情報が集まってきて、そうした情報をもとに、建設的な対話が進んでいく。そうしたプロセスをとっておられます。その様子を拝見しておりますと、やはりまず「はじめの一言」を発することが大切なことなんだな、と感じます。
(森川)そうですね。でもね、ネットだとね、古い情報、ずいぶんと過去の話は収集できないわけですよ。当時の人に聞かなきゃいけないから。例えばね、僕はボクシングジムの会長もしてるんですけど、ボクシングの世界にも「慣例」があるんですよ。他の格闘技団体に協力しちゃいけない、とかね。でね、「それって、誰が決めたの?」って聞くと、誰も知らないわけですよ(笑)。え、それも知らないのにみんな従ってんの?っていうね(笑)。おかしいじゃないですか。せめて、事の起こりくらい知っておこうよ、って思いません?「昔からの掟(おきて)」みたいなものは、どこの業界にもあるわけですね。でもね、それを受け容れるんだとしても、せめて、事のあらまし・起こりを知ってからにしたいな、と、わたしは思うんですよ。せめて、後輩に聞かれたときに、こうだからだよ、って答えられるようにはなっておきたいな、っていう感じですよね。
▼コミケまわりの話 ~「筋(スジ)」について~
―――続いて、コミケまわりの話について、うかがわせていただけたらと思います。この世界にも、いろいろな歴史的な「経緯」がありますよね。もちろん、原作者尊重・著作権保護が第一なんだけど、楽しんでる人もいるし、ということで、「微笑ましく見守ってる」んだけど、でもやっぱり、「筋(スジ)」ってあるよね、という。そうしたやりとりを長い年月をかけて積み重ねて、だんだんと「暗黙のルール」のようなものができあがってきた、ということですね。森川先生は、優しさもありつつも、「ここから先を超えたら反則だぜ、原作者に対して失礼で、筋が通ってないんじゃねえの」、っていう、そうした「一線」もビシッと示しておられます。そうすることで、漫画業界を持続可能なものにしていこうとされているのではないかな、と思うのですが。全部を許してしまうと、漫画業界がもたなくなってしまいますものね。
(森川)ルールが正しいかどうかもわからないし、そういう、大人が決めたルールに不満をもってる人もいっぱいいるのかもしれないですけどね。今現在、それをメリットとして享受している人が多いなら、微笑ましく見守ってましょう、っていうくらいの感じなんですけどね。
―――森川先生は、そうした「暗黙のルール」みたいなものを、ただ単にブラックボックスにするんじゃなくて、どうしてそういう形になっていったのか、ということについての歴史的な経緯を、オープンにお話をしておられますよね。「暗黙のルール」、みたいになると、みんなが委縮してしまうから、できるだけオープンにしていこうとしておられるのでしょうか。
(森川)この種の著作権の話って、画像生成AIについての会話をしていても感じるんですけど、騒いでいる人たちって、著作権問題にはじめて直面している人が多いんですよ。要するに若い人が多いわけです。僕は60歳になる人間ですけど、今まで、さまざまな著作権問題に直面してきたわけですよ。僕から見ると、同じことが繰り返されてるだけなんですよね。だから、若い人たちに、「こういうことなんだよ」って説明してるだけなんですけどね。
―――そうですよね。森川先生は、若い人たちとX(Twitter)等を通じて対話をされる際にも、「お前ら歴史も知らねえで」みたいなことを言って相手を委縮させるのではなく、過去にこうこうこういう経緯があって、ということをしっかり教えてあげておられますよね。決して感情的にならずに。そうすることで、感情的になっていた若い人たちが「そういうことだったんですね」と納得したりしている様子もよく拝見しています。そのように、歴史をオープンに共有していくことで、対話の中で納得感が生まれていくわけですね。
(森川)小学館であれ集英社であれ講談社であれ、角川書店も、ほとんどの出版社って、ホームページに「二次利用は必ず許諾を取るように」って書いてあるわけですよ。要するに「無断でやるなよ」って書いてあるわけです。そういうことを、出版社は、いちいち書いてくれているわけです。われわれ漫画家は、出版社に版権を預けているわけです。それで、出版社は、われわれを守ってくれているわけです。だとすると、これも出版社に対する筋(スジ)として、「俺のを無断で使っていいよ」と言っちゃいけないわけです。本来は。守ってもらってるんですから。不法地帯にならないように。だから・・・、漫画家としては、「微笑ましく見守ってる」・・・という言いかたしかできないわけですよ。
―――筋(スジ)。「こうだからこうなんだ」っていう筋(スジ)。お互いが納得して築き上げてきた筋(スジ)。出版社に対する筋(相手がこうしてくれてるんだから、こちらもこうするんだ、という義理)も通しつつ、若い人たちに対しても筋(どうしてこれがこうなっているのか、という歴史)を示しつつ、皆が納得してやっていけるような状況を創り出そうとしておられるわけですね。そうした森川先生の思い、きっと、みんなにも伝わっているとおもいます。
社会的課題を解決するために、社会を巻き込んで社会全体と対話する
▼TPPをめぐって ~「賛成」「反対」という単純なゼロイチではなく~
―――続いては、少し視野を広げて、お話を伺わせていただきたいと思います。森川先生は、漫画業界のみならず、社会的に広く影響を与える社会的課題の解決に向けても、いわば<社会全体との対話>を続けてこられました。時に政治家の方なども巻き込みながら、社会全体にメッセージを発したり、社会におけるコンセンサス(共通認識)を生み出していったり、といったことを続けておられると思います。例えば、2013年から開始されたTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉においても、森川先生は、著作権に関わる論点について、広く社会全体に対してメッセージを発信しておられました。TPPの締結によって、ずっと親告罪とされてきた著作権等侵害罪が非親告罪の対象となっていく、という話が出てきた時に、「賛成」「反対」と、単純にゼロイチで反応するのではなくて、「こういう場合は(非親告罪の対象としても)いいけど、こういう場合は(非親告罪の対象にしたら)だめだよね」というようなことを、ふんわりした話ではなくて、具体的な話として発信されながら、世論、つまり社会的コンセンサスを作っていかれたんじゃないかな、と思うのです。
(森川)TPPのことは、問題提起したのは赤松健なんですよね。まだ彼も週刊連載していた頃で、国会議員になる前のことでしたけど。彼が、「こういうことが起きますよ」っていうことを、説明してくれたわけです。要するに、「非親告罪にする」ということが実現してしまうと、日本のコミケとか、日本の文化がつぶれてしまうだろう、ということを、説明してくれたわけです。僕は、もともと、二次創作というものに対してよく思ってなかったんですけどね(笑)。勝手に人のふんどしで相撲とりやがって、っていう感じだったんです(笑)。二次創作活動をしてコミケなどに参加している人の9割以上が赤字でやってる、っていうのは分かるんですけど、でも、外から見てると、めちゃくちゃ儲かってるようにみえるので、そりゃあねえだろう、って思ってたんですよ。よくよく話をきくと、いろいろあるみたいで。儲かってないところもあれば、「壁サークル(人気があるので混雑対策で壁際に配置されることの多いサークル)」みたいなところもある、と。でね、もしも、著作権等侵害罪が非親告罪になると、著作者本人じゃなくて、誰でも訴えられるようになるわけですね。親告罪ですから。そうなると、たとえば「やっかみ」みたいなことで、訴えられるようになってしまうよ、ということなわけですね。でもね、よく考えてみると、生成AIもそうだけど、われわれ漫画描いてる人間も、みんな無断学習してきたわけじゃないですか(笑)。わたしだって、ちば先生を目指してきてるから、60年近く、ちば先生の漫画をパクってきてるわけですよ(笑)。模倣してきているわけですね。それが、「あいつ、ちば先生の表現、真似てるぞ」と。そんなふうに、ちば先生でなくても、ちば先生以外の誰かが、誰でも訴えられるようになるわけです。そうなると、そういうことも、できなくなってしまう、っていう話になっちゃうわけです。「一次創作」すらできなくなっちゃうわけですね。日本の漫画文化っていうのは、模倣のしあいで高めていっているところがありますからね。そういうのもできなくなるのは困るな、と。現代では、もう、誰だって、0(ゼロ)から1(イチ)をつくることはできないんですよ。だって、これだけの数の漫画が既にあって、みんな、読んで、影響を受けてきてるわけですから。みんな、なにかしら、なんかの漫画からアイディアを拾ってきてるわけですよ。だからね、TPPの時は、これはもう、利他的、社会のため、とかいうより、自分にも関わってくるな、ということでやったんですよね。
―――森川先生、過去のいろいろな漫画を研究しながら、漫画の練習をしておられたとX(Twitter)でも書いておられましたよね。SF漫画と、スポーツ漫画で、髪型の向きが違うんだ、と。それを読んで、森川先生は先人をリスペクトしておられるのだな、と感じましたよ。先人がいて、その先人を参考に、模倣というか、練習を繰り返して、漫画技術がどんどん発展していく、それは至って健全なことですよね。そうした営みすら否定されるようになってしまうと、先人が残してくれた財産も否定されることになってしまうよね、ということですよね。
自分の子どもの頃の絵を投稿したので、子どもの頃の漫画研究を発表します。
(森川)そうそう。SF漫画って、髪の毛がうしろになびいてるのが多い、ってことに気付いたんです。SFは向かい風なんだな、って。それに対して、スポーツ漫画、少年漫画っていうのは、髪の毛が前になびいてる。これは、追い風なんだな、って。そういうことに気が付いて、そういうことを知ってるってことは、ぼくが、模倣してきたということなんですよ。そういう法則的なことの学びすら許されなくなっちゃう、っていうのは、それは困るよね、と思ったわけです。
―――文化の継続と発展が損なわれるということですものね。ちば先生の漫画を参考に学ぶことを、ちば先生の真似してるじゃないか、なんて言われたら、業界が崩壊してしまいますよね。森川先生は、そういった具体的なところを、実際のエピソードにも触れながら、X(Twitter)等を通じて広く社会全体に情報発信しておられますよね。それによって、私もそうですけど、漫画家ではない一般の人間にとってもわかりやすい、「なるほどそうだね」、という納得感をつくりだしておられるように思います。それが広がって、やがて「世論」になっていくわけですよね。
(森川)そうですね・・・。X(Twiter)ね、便利ですよね。広く伝えられますからね。でも、「広く浅く」にならざるを得ない、というか、そうしたツールで発信できることには限りもありますからね。社会全体の納得感をつくるところまで辿り着けているかわからないですけどね・・・。
▼災害で苦しむ人たちに寄り添って
―――社会へのメッセージ、ということで言えば、森川先生は、他の漫画家さんにも呼びかけながら、福島、熊本・・・、大きな自然災害が起きた時に、ずっと、漫画家として寄り添っておられますよね。こうしたことを続けることはきっと大変なことだと思いますが、森川先生は、こうした取り組みを、どういう思いでやっておられるのでしょうか。どういう思いもなにもないかもしれませんが・・・。
(森川)福島、熊本、それから熱海もね。いろいろなところに行ってきましたよ。能登も、これから日本漫画家協会として活動を始めます。これもねえ、簡単な話なんですよ。漫画家っていうのはですね、これね、サービス業なんですよ。僕の考え方ですけど。漫画家っていうのは、サービスを提供して、人に喜んでもらって、それで報酬をいただく、そういう仕事なわけです。そういうふうに商売として成り立っているわけなんでね。要するにね、福島も熊本も熱海も、「自分のお客さんがいるところ」なんですよ。それで、自分のお客さんがそこにいて、困ってるわけじゃないですか。そりゃあ、行くべきですよ。いつもお世話になってるんですから。簡単な話です。

―――それが「筋(スジ)」だ、ということですね。森川先生は、常々、「読者が一番大切」なんだ、「ファンの方あっての漫画」なんだ、とおっしゃっておられますよね。ですから、読者、ファンの方が喜んでくれることをするのが仕事なんだ、と。漫画を描いて漫画を読んでもらうこともそうだけど、それだけではなくて、漫画家としての自分が直接お客様のところに行って、メッセージを発して、人間そのものとしてサービスを提供する、そうしたことも「サービス業としての漫画家」としての仕事なのだ、と。そういうのもふくめて漫画業だっていうことなんですね。
(森川)そりゃそうです。僕の考え方なんですけどね。普段漫画を読んでもらっててね、こういうときに、「いいよ読まなくて」っていうのは違うでしょ。向こうで困ってて、漫画も手に入らなくて。それで、じゃあ、いいよ、読まなくて、っていうのは、違うよね。そう僕は思うよね。もちろん、来るなよ、っていわれたら行かないですけど。「何か力になれるなら」って自分から声掛けて、それで、「来てください」って言われたら、「行きます」っていう感じですよね。
―――はじめにまずご自身から声をかけておられるのですよね。コロナ禍をきっかけとして電子書籍の配信をOKされたことについても、「コロナが怖いから漫画買いに行けない、そういう人たちは、電子書籍があれば助かるだろう、と考えたからだ」、という森川先生のエピソードからも、森川先生が常に「読み手第一」で行動しておられることが伝わってきます。
(森川)いや、まあ、巡り巡ると自分のためなんですけどね。利己的なんですよ。お困りですか、って言って、なにかが解決したら、何年後かに、また漫画を読んでもらえるじゃないですか。それがたとえ僕の漫画じゃなくてもね。自分たちのためになるじゃないですか。簡単な話ですよ。
▼「不健全図書」の名称変更をめぐって
―――東京都が今まで条例の中で「不健全図書」という名称を使っていたものを、2024年に「8条指定図書」という名称に変更した件についてなのですが、この件は、森川先生をはじめとする漫画家さん方が東京都議会の議員さんにアプローチして、議員さんも巻き込みながら世論形成して、実際の名称変更にまでつながっていった、という印象がありました。まさに、社会との対話をされておられたように思います。実際はいかがでしたでしょうか。
(参考)NHK|新名称は「8条指定図書」不健全図書の名称変更 東京都
(森川)この話のね、事の成り立ちは、60年前に遡るんですよ(笑)。日本各地に「青少年健全育成条例」というのができましてね。漫画の不買運動とか、それこそ「焚書」みたいなことがあって。その頃からずっと続いてる話なんですよ。それでね、いまから10なん年か前、石原都知事のころ、漫画だけに絞って規制がさらに厳しくなる、というときに、漫画家協会で今は理事長をしている里中満智子や、会長のちばてつやが、陳情に行っていたわけです。それが、けんもほろろにかえされちゃってて。その様子がニュースとかで報道されてるのを見てて。こんな大変な思いしてんだ・・・というふうに見てたんですけど、けんもほろろにされてるのを見てて、なんだかすごい悔しかったんですよね。それで、ちばさんとかには、「そんなつらい思いしにいく必要ないんですよ、ちばさんは少年誌なんですから、暴力とかエロは描いてないでしょ、そんなにしんどいこと、やんなくていいじゃない」って言ったんですよ。そしたらね、ちばさんふくめた先輩方が、僕に教えてくれたんですよ。「漫画っていうのはね、清濁あわせもった文化だよ」って。「富士山っていうのは、裾野が広いから高いんだ」って。「裾野にはゴミもいっぱいあったりするでしょ、そういうのもぜんぶ含めて、ぜんぶ富士山なんだよ」って。それを聞いて「なるほどー」って思って。それから、ずっと、「「不健全図書」のこと、なんとかできないかな」、って、ずーっと頭の片隅にあったんですよ。それでね、「不健全図書」の名称変更にチャレンジしてた一般のひとたちが二人いたんですよ。それを知って、「それなら、もしかしたらできるんじゃないかな」と思って。それに乗っかることにしたんですよ。条例そのものを変えるのはかなり難しいことなんですけど、名称変更だったら、自分達漫画家の名前を集めて大きな話にしていけば、5年10年かけて変えていけるんじゃないかな、と思ったわけです。「不健全図書」、ましてや「有害図書」とか言われたら、漫画にとっては風評被害ですから。名称が変われば風評被害はなくなるんじゃないかなあ、と思って、動き出したわけです。そしたら思ったより早くできちゃったんですよ。それはね、なんでそうなったかっていうと、都議会の中身、都議会の中の感性っていうのがずいぶん変わってた、ってことなんですよね。昔とは感性が違うんですよ。僕の力じゃないですよ。都議さんも、都の職員さんも、みんな「漫画大好き」って言ってくれるんでね。皆さん好意的な態度でしたよ。「言ってみるもんだなあ」と思った案件でしたね。
―――漫画という文化全体、もっといえば社会全体のことを考えての行動だったのですね。そして、どうすればなんとかできるかを考えて、調べて、すでに活動している人たちがいたから、そこに乗る形で行動して。言ってみたら、世の中が動いていった、と。言ってみたら、意外にも好意的に受け止められた、と。まさに、「言ってみたからこその」、ですね。
(森川)僕自身もあきらめてたしね。大半の人もあきらめてたんじゃないかな。でもね、そうすると、今から50年後100年後にも「謎の慣習」として残ってることになってしまうわけですよ。僕ね、最初はひとりで都議会の各会派に陳情にまわったんですけど、ほとんどの会派に「それってなんですか?」って言われてさ(笑)。「条例にあるじゃない!」って言ったんだけど、いやいやわれわれ知りませんから、って言われてね(笑)。そういうことを、条例を作る側が言うわけですよ(笑)。「これも慣習になっちゃってるんだー!」って思ったね。そりゃそうだよね、60年前から議員やってる人いないからね(笑)。誰も知らない、形骸化したものが続いちゃってるんだ、って思いましたよ。だからはじめは、歴史からレクチャーしましたよ、都議さんに(笑)。
―――議員さんすら知らない「謎の慣習」になっちゃってた、と。それを、森川先生が、歴史から説いてまわられたわけですね。
(森川)そうなんです。議員さんたち、それからすごい勉強してくれてね。2年後にはみんな専門家みたいになってましたよ(笑)。僕たちより詳しくなってた(笑)。
―――議員さんや都の職員さんたちも、世代的に、みんな漫画読んで育った世代でしょうから、森川先生が来てくださって、きっと嬉しかったでしょうね。
▼ドラマ「セクシー田中さん」を巡る一連の出来事を振りかえって
―――2024年に、芦原妃名子さんの漫画『セクシー田中さん』を原作としたテレビドラマ『セクシー田中さん』を巡って、悲しい出来事が起きてしまいました。その出来事を巡って、森川先生は、X(Twitter)等を通じてリアルタイムにさまざまな情報発信、ご発言をなさっておられました。とりわけ、森川先生ご自身がアニメ化を経験したときに起きたことについてオープンに情報を発信しておられたのが印象的でした。それを読んで、漫画がドラマ化される際の、実際の、現実の状況を、はじめて知った、という方も多かったのではないか、と思います。それによって、加熱する感情論を、具体的な解決策の議論へと導いておられたように見えました。森川先生は、まずはじめに、明確に、「原作者第一」なんだ、という大原則を示しつつ、そのうえで、「契約書をしっかり交せばこういう問題は起きないんだ」というような論調に対しては、「いやいや、そんなに単純じゃないぞ」ということを問題提起しておられました。状況はケースバイケースで異なるわけだから、結局は、腹を割った話し合い、対話が大事なんであって、そうした対話を行える状況と環境を作っていくことが大切なんだ、ということをメッセージされていたように思います。「孤独」に抱え込んでしまっては解決に至らないし、不幸な出来事につながってしまう、と。しんどいときに、ちゃんと話し合える、ということが大事なんだ、ということを話しておられました。そのような森川先生のメッセージは、希死念慮を感じやすい繊細な方が多い「漫画家」という職業の方々だけでなく、いま、生きづらさを感じている、世の中すべての人に響いたと思うんです。まさに、社会全体にメッセージを発してくださったように思いました。
(森川)いやいや、そんな大仰な話じゃなくてね(笑)。単純な話でさ。この時もね、世論においては、感情と事実を分離できない人たちがかなりいて。そういう人たちは感情的になって「ちゃんと契約書交わさないとだめだ!」とかって言うんだけど。「実際に契約書読んだことあるの?」って思ったんだよね。そもそも契約書っていうのは例外なく甲と乙についてのペナルティを定めるものですから。漫画の世界における出版契約においては甲がわれわれ漫画家になるわけですけど、甲の側にも拘束力が発生するんですよ。契約は。そんなの交わすんですか、って。契約書をよーく読みこんでみたら、「原作を勝手に使いますよ」とか書いてあるかもしれない。そういうのを読み込める読解力あるんですか?っていう意味で書いたんですけどね。そもそもね、法律において、著作者人格権ってもんが定められてるわけですよ。契約で決めなくてもね。だから、原作者がダメっていったらダメなんですよ。
―――森川先生のお話は、いつもすごい具体的で実際的な話ですよね。そうでないと、現実的な課題解決にならないですものね。感情論で、「悪いのはあの人たちなんだ~!」「だからこうしなきゃだめなんだ~!」っていう思いだけで突っ走っても、その時の気持ちは収まるかもしれないけれど、それだけでは、現実的な課題解決にはつながらないですものね。そうして、また、同じことが繰り返されてしまう、と。だから、具体的な課題解決が大事で、そのためにも、事実、現実を見て、どうすればいいかを冷静に考えないといけない、ということですよね。
(森川)まさしくそういうことなんですよ。簡単な話なんですけどね。
―――ドラマ『セクシー田中さん』を巡る一連の出来事は、連日のようにヤフーのトップニュースなどにも掲載されていましたので、漫画家さん、業界の方々だけではなく、みんなが注目してたと思うんですよね。いまの世の中、生きづらい、と言われます。みんな、つらい。そんななかで、森川先生が発せられたメッセージが、業界の方々はもちろんのこと、広く日本に暮らすみんなに勇気をくださったと思うんですよね。しんどい、悲しい、それはわかる、と。ただ、前に進むためには、まず、はじめの一歩。一歩一歩変えていかないと、課題解決にはつながらないよ、ということを伝えてくださったんだと思うんですよね。
(森川)いやいや、そんな大仰な(笑)。そんなたいしたことしてないですよ(笑)。まあ、確かにね、X(Twitter)では、自分なりに発言してきたつもりですよ。ちょっと待てよ、と。われわれは警察じゃない。司法でもない。犯人捜しをする役割でもないし、罪状を言い渡す役割でもない。それは越権行為だよ、と。不幸な出来事をなくすために、われわれがわれわれ自身としてできることはなんなんだ、それを考えようぜ、ってことを言ったつもりでね。それは、果たして、契約書を交わすことなんですか、って。そういう契約書を交わして、キューッとね、自由度の低いエンタメしか作れないようにすることが解決策じゃないですよね、って。
―――力強いメッセージを発してくださったなあ、と思います。当時は、インターネット上に感情論も溢れていた時期でしたよね。ちょっとでも変なことを言ったら途端に大炎上してしまいそうな。最後に、森川先生に「勇気」についてお伺いしたいのですが、森川先生は、そのような状況下でご発言をされる時に、大炎上するんじゃないか、みたいな「不安」を感じられたりはしないのですか?
(森川)もちろん、今回の件は、いつも以上に、言葉選びは慎重にしましたよ。しましたけど、それでも、「炎上」はしてましたよね。いろいろ言う人もいましたよね。でもね、まあ、「炎上」してもいいような気もしてるんですよ。もちろん、自分が悪くて(間違ったことを言って)炎上したら、そりゃあダメだけど。でも、このときも、あのときも、いつだって、別に、悪いことしてないもん(笑)。勇気なんていらないですよね。もし、自分が言ったことが間違ってた、ってことがわかったら、僕は、割合すぐに、ちゃんと、かなり、謝罪しますからね。ごめん、間違ってました、ってね。
―――はじめに一言、まず発言しないことには、話が始まらないですものね。はじめの一言を発することで、それに対して反応が起きて、反応をふまえて軌道修正したり、新しい発見が生まれたりするわけですものね。そうして、「確かにそれはあなたの言うとおりですね」というように、対話を通じて、社会全体に納得感が生まれ、建設的な議論が進んでいくことになるわけですよね。
(森川)えらそうなこといっても、僕自身は賢者じゃないんでね。自分の経験値で話すしかないんだよ。でね、いつだって、自分の経験の中では、自分にとっては、100%正しいんですよ。だって自分はそうだったんだから。でもね、それが「他の人にとっても正しい」かどうかは分からないんですよ。だから、自分の経験値を話して、それに対する反応を人から聞かせてもらえれば、「なるほど」って思える。学びがあるんだ。でね、エビデンス(こういう時にこういうことがあった、という事実、経験)もね、どんどん時代とともに変わっていくんですよ。かつて正しかったこともね、明日になればね、間違ったことになっていくかもしれないわけですよ。新しい何かが出てくるかもしれないわけ。だからね、もし、人と話してて、発見があれば、自分が変わっていかなきゃいけないわけ。変わらなかったら、ただの頑固オヤジですよ(笑)。よくね、「意見がブレてますね」とか「いまブレましたね」とか言われるんだけど(笑)、ブレて当然なんですよ。「意見が変わる」っていうのは「成長してる」ってことだから。それでいいと思うんだよ。
―――スポーツの世界において、「練習して、試合に出て、戦っていかないと強くならない」ということと同じですね。立ち止まって安全圏にいたら成長しないってことですよね。「もし炎上したらどうしよう」って恐れて、ひとことも発言しないでいたら、成長はない、ってことですよね。
業界を超えた対話について ~立場の違う人たちと対話をする~
▼アニメーターとの対話 ~「主語を大きくして話さない」ことについて~
―――最後に、「業界を超えた対話」についてお話を伺わせていただきたいと思います。森川先生は、よく、ご自身のことをボクシングのサンドバッグに例えながら、異なる立場の人達との対話を積極的に進めておられます。時に様々な批判も浴びながら、それでも、積極的に対話を重ねて、真の問題解決を進めておられる森川先生から、「どうすれば、立場が違う人たちとしっかり対話を行うことができるのか」について、ヒントをいただけたらと思っています。はじめに、「アニメーターさんによるイラスト色紙」のエピソードからお話を伺わせていただけたらと思います。森川先生の漫画『はじめの一歩』がアニメ化された際にアニメの原画を担当された方が、『はじめの一歩』のイラスト色紙を作って配っておられた、ということについて、森川先生が「それは困る」ということで、ご発言をされたことを受けて、広くアニメ業界からさまざまな反応が出て、対話が生まれた、という出来事が2023年にありました。印象的だったのは、森川先生が、「アニメ業界対漫画業界というように主語を大きくして話すから、感情論になってしまって、事実に基づく建設的な対話にならないんだ、これは、一対一の、個人と個人の個別具体の話なんだよ」、という主旨のことを発言しておられたことでした。
(森川)アニメーターの人は、個人が特定できましたからね。その個人の人と話をして、自分らの中では解決したんですけどね。それと並行して、アニメ業界の人が怒っちゃって(笑)。「われわれは、自分が携わったアニメの絵を描いてサインして売っちゃいけないのか」、と。でも、そう言われると、原作者としては、「では、売っていいんですか」、っていう話になるよね。アニメーターは、サイン色紙を売りたい。仮に、「じゃあ、売ってもよしとしましょう」とするじゃないですか。そうすると、アニメって、だいたい100人以上関わってますよね。サイン色紙っていうのはだいたい1枚5万円くらいで売ってるわけですね。結構高値で売ってるわけです。それを、じゃあ、関わった100人みんなが売っていいんですか、と。そういうふうに、僕からアニメ業界の皆さんに投げかけたんですけど、そしたら、「アニメの背景美術をちょっとサポートして描いた人、とかじゃなくて、作画監督のラインの人とかだったらいいんじゃないですか」みたいな話が出てきたんです。でもそれって、誰が線引きするんですか、っていう話ですよね。線引きできないようだったら、全員だめですよ、って言ったわけ。こちらから「こうしたらいいですよ」って提案もできませんよ、と。要するにね、作家が「いい」っていったら、みんなOKになっちゃうわけですよ。3秒くらいの動画を描いた人でもOKになっちゃうわけですね。そうすると、きりがなくなっちゃうから。でね、「じゃあ、どうしたらいいのかね」、ってことを、アニメ業界の人と具体的に話をすることにしたわけ。アニメ業界っていうのは漫画業界とものすごく隣接した業界だからね。互いに、気持ちも、よーくわかるわけね。苦労することも似てるわけね。絵描きの問題だから。同じなんだよ。それで、「話聞かせてー」って言ったら、何人か集まってくれたから、話をしたんだけどね。
―――「業界対業界」みたいな主語の大きな話がX(Twitter)などで盛り上がって、なかなか建設的な対話にならない、そうした状況の中で、そこで終わりにしてしまうのではなくて、「直接会って個別具体に話す」、っていうのがすごいなあと思いました。業界のことを全然知らない方は、「アニメーター」って一言で言うんでしょうけど、実際には、原画の人、動画の人、背景の人、それも、監督レベルからアシスタント的に関わっているような方まで様々ですものね。それが、140文字のX(Twitter)の世界では、ざっくりと、雑に、「アニメーター」ということばでまとめられて、乱暴な議論が繰り広げられてしまう、と。そこを、森川先生は、ひとつひとつしっかり紐解いていかれて、なんなら直接膝詰めて飯を食いにいって、直接対話で納得感を創り出していかれているところがすごいなあ、と思うわけです。
(森川)アニメを作ってる人たちもね、ひとりで描いてるわけじゃないんですよ。いろんな人が関わっててね。フリーランスとして描いてる人もいるんだろうけど、会社員として描いてる人もいるわけですよ。それでね、たとえば会社員として描いてる人が、「自分もアニメに携わったんだから、権利がほしいんだ」って言われても、会社員だからねえ。会社員がお小遣い稼ぎでわれわれの絵を書いて売るんですか、ってなるよね。それは違うでしょ、って。っていうように、ひとつひとつ、個別の話なんですよ。だからね、この時は、業界同士でちゃんと話せば解決できる話だったんです。業界同士っていうか、プロデューサーとか原作の担当編集者とか、そういうラインで話しあうんじゃなくて、現場間、実際に絵を描いている人間同士で話せばいい話だったんですよ。
―――「現場の実態」、ほんとのところを理解している人間同士で、まっすぐ対話する、ということですよね。そこに、納得感のある解決策が生まれてくる、と。
▼「インボイス制度」を巡って ~想像力の大切さ~
―――いわゆる「インボイス制度」を巡っても、森川先生は、現場の実態をふまえながら積極的に発言しておられました。若い漫画家さんたちを中心に、すべての描き手にとって負担の大きな制度であるからして、導入については慎重になったほうがいいんじゃないか、というお話をしておられました。この時も、やはり、「利他」というか、漫画業界のこれからの持続的発展のことを考えて発信をしてこられた、ということなんでしょうか。
(森川)僕も含めて、漫画家にとって、事務作業が煩雑になるのはイヤなことですよね。とにかく原稿に集中したいですから。漫画を描いてるとね、没入しちゃうわけ。没入すると、漫画の中から出てこれなくなるわけですよ。それで、ようやく終わって、漫画の中から出てきて、あ~、ようやく日常生活に戻ってこれた、っていうときに、「さあ今度は事務作業しなきゃいけない」ってなるのはね。とりわけ、インボイスの話って、難しいですからね。複雑で、めんどくさいんですよ。もっとシンプルにしてくれ!って話なんです。
―――それが、現場の、現実の、実際の、実態ですよね。漫画家の方は漫画に没入してるんだ、と。いい漫画を描くには、集中できる環境が必要で。伝票整理して計算して書類作って提出して・・・っていう、そういう時間がないんだ、と。その実態を知ってもらわないと、ということですよね。お金の話もあるけど、お金だけの話じゃなくて。「週刊連載で命削って死ぬ思いで働いておられるかたがたに、さらに追加の事務作業がのっかってきたらどうなってしまうの?」っていう想像力をもって考えてくれないと、ということですよね。
(森川)インボイス制度については、税金が高くなるって言って批判している人もいるんですけど、僕は、それより、事務作業の煩雑さだね。漫画家だけじゃないよね。フリーランスの人、みんなそう思ってると思うんだけど。会社に所属して、給料から保険とか税金とか天引きされていれば、それほど大変じゃないわけですけれど。それを、全部自分でやらなきゃいけないとなると、全部勉強しなきゃいけないわけで、しかもそれが、国の都合で変わっていくわけだよね。どんどん更新されて、しかも、どんどん複雑化していっているわけですね、しかも、その更新のスパンがどんどん短くなっているんですよ。何年かおきに変わるから、覚えきれないわけですよ。おそらく会計士も税理士もなんとなくやってる感じだと思いますよ。ぜんぶ理解しきれないですよ、あんなの。そういう状況で、漫画家に「理解してくれ」って言われても、それは難しいし、「あなた申告ミスしてますよ!」って言われても、「当たり前だよ!」って言いたくなるしね。フリーランスの人、みんなそう思ってると思いますよ。事務作業大変だよ、って。生きていくだけで大変なのに、そこにさらに事務負担が乗っかってきてるわけだから。
―――私もひとりのフリーランスなので、よくわかります。私も、フリーランスになる前は、長く会社勤めをしていたんですけれど、会社勤めをしていた頃は、フリーランスの大変さについて、イメージとしてはなんとなく知っていましたけど、本当のところはわからなかったですもんね。確定申告がどれくらい大変か、っていうこととか。締切間際で納期ギリギリで仕事してるのに確定申告もしなきゃいけなくて、いま、そんな時間ないぞ、って。しかもそれがどんどん複雑になっていっていて。フリーランスにとっては死活問題なんですよね。
(森川)でもね、僕はね、会社員の人が「特別に守られている」とは思ってないんですよ。会社員の人達は一生懸命努力して会社に入って、会社に入った後も一生懸命会社のために活動してきているわけですから。だったら、会社に守られてしかるべきだと思うんですよ。フリーランスは、そういう道を選ばなかったわけですから、そこを文句言っちゃいけないな、とは思うんですよ。ただね、それにしても、世の中ね、複雑になりすぎてて、それはおかしいと思うんですよ。税務署の窓口行って質問しても、相手が説明できないんですから(笑)。まあ、無理ですよね。インボイス制度においては「激変緩和措置」があるっていうけど、「激変緩和措置」って何?ってなりますよね。しかも、「激変緩和措置」の期間が終わったら、また変わるわけでしょ。どう変わるの?ってなりますよね。もう、わかんない、って(笑)。
―――そうしたことをキャッチアップする(情報を集めて勉強する)時間もないですもんね。その時間があったら、少しでもいい仕事をしたいですしね。「仕事に集中したい」。漫画家さんだけでなく、イラストレーターさん、声優のみなさん、個人事業主のドライバーのみなさん・・・、ありとあらゆる職種のフリーランスのみなさん、業界を超えて、みんなそう思っていると思います。
▼生成AIを巡って
―――最後に、今話題の「生成AI」を巡っての対話について、お話を伺わせていただけたらと思います。森川先生は、生成AIを巡っても、時にネット上でたくさんの批判を受けたりすることもありながらも、積極的に発言をされ、立場の異なる相手と対話を重ねて、建設的な課題解決をしていこうとしておられます。森川先生は、常々、「賛成」「反対」の、0(ゼロ)か1(イチ)かのザックリした感情的な議論では、現実的な課題解決に向けた建設的な対話にならないよ、ということをおっしゃっておられます。森川先生は、生成AIについても、「ひとつの道具だ」とおっしゃっておられました。道具なんだから、もちろん「悪用」はダメだし、大前提として「権利保護」は当然なんだけれども、いっぽうで、道具なんだから、便利に使えるようにしていったらいいじゃないのよ、というふうに発言をされ、対話を進めておられました。とにかく賛成!とにかく反対!といった感情的な言い回しではなくて、「どうすればいい道具にできるのか」、具体的に建設的な議論をしていこう、と森川先生はおっしゃられてきたと思うんですよね。
(森川)YouTubeとかニコニコ動画とか、ぜんぶ、最初は、著作権法違反、「違法」から始まっているわけですよね。全部そうだったじゃないですか。でも、それが、利便性が高まっていって、メリットのほうが大きいよね、ってことで、社会的に享受されるようになっていったんだと思うんですけど、生成AIも、そういう話の繰り返しだと思うんですよね。確かにね、そもそもね、「無断で学習してる」っていうのは間違いなんですよ。でもね、考えてみれば、AIの技術者だって、世の中便利にしようと思って作ったわけですよね。悪いもんじゃないわけですよ。クルマだって、人を殺してしまう可能性があるわけですけど、だからといって「クルマをなくそう」という話にはならないじゃないですか。あくまで、使う側の問題なんですよ。生成AIが出てくると、人間の職業(仕事)が奪われる、って言いますよね。でもね、職業を奪うのはAIじゃないんですよ。AIを使うのは人間ですから。その、AIを使ってる人間と競えばいい話なんですよ。事実と感情を分けて考えようね、って思いますね。

―――「事実と感情を分けて考える」。大事なポイントですね。
(森川)僕の考えではね、生成AIって、著作物の二次利用だから、自分の著作物を利用された側が利用したほうを訴えればいいだけの話だから、現行法で対処できるんじゃないの、って思ってたんだ。だからね、それを説明したんだ。生成AIは、(原作者が描くのと同じように)そっくりにかけるから、「なりすまし」ができるわけですよ、それで「いたずら」ができちゃう。もちろん、そういうのはダメだよ、って言ったわけ。でもね、それは、AIが悪いんじゃなくて、そういうふうにAIを使った人間が悪いわけ。その個人を訴える、っていう話なわけ。AIに賛成・反対って話じゃなくてさ。
―――森川先生は、まさに、「事実と感情を分けて考えて」情報発信をして、積極的に対話を進めることで、「この世界の可能性をつぶさない」ということも意識しておられるように思います。生成AIにしても、道具として上手に活用すれば、新しい表現につながっていったりするわけですよね。作業時間を減らしたりすることにもつなげていける可能性もあるわけで。森川先生は、対話を通じて、そういう、物事の「いいところ」、未来の可能性に、目を向けさせてくださったように思うんです。
(森川)「10年後に答えあわせしましょう」ってことですね。最近のインターネットでの議論って、すごく近視眼的になっているように感じていてね。こういうのは、5年10年経ってはじめて答えがわかることですからね。悪用してる個人がいる、みたいなことは、別の話ですから、そういうことに対しては個別具体にしっかり対処していくとして、AIそのものの可能性がどんなものか、っていうのは、5年10年経たないとわからないわけですよ。悪用はダメだよ、って言ってるけど、実際には、うまく使ってる人のほうが多いわけです。その人たちに「ダメだ」っていうのは、また違うよね、と。別に、現行法にひっかかることしてるわけじゃないんだから。でもね、「今現在、現行法にひっかかることじゃないから犯罪じゃないんだよ」って言うようなことを僕が発言すると、「あなたのような影響力のある人がそういうことを言うと、いい気になって使う人が増えちゃうから、自分の影響力を考えてください!」って言ってくる人がいるんですよ(笑)。いやね、僕は、個人なんですよ(笑)。影響力とか言うなら、テレビ局とかに言ってくれ!って思うね(笑)。だって、おかしいよ。個人が意見する口をふさぐ、っていうのは。
―――「委縮させられて、発言できなくなってしまう」・・・というのは、よくないことですよね。別のところで、森川先生は、「漫画家協会の理事は、秘密保持があるから発言できないこともある」、ということも仰っておられました。
(森川)漫画家協会ってのは公益社団法人ですからね。公益社団法人の理事会って、守秘義務がかかるんですよ。だから、「理事会の場で、誰が、こういう発言をした」っていうことは、言えないんですよね。僕は、ぜんぶ、言いたいですけどね。
―――発言して、議論が行われて、情報が集まって、現実の実態や、相手の状況についても詳しくわかって、はじめて、納得感が生まれて、物事が前に進んでいくわけですからね。みんなが委縮して、発言できない状況になってしまうと・・・、その、「はじめの一歩」を踏み出せないわけですからね。
(森川)漫画家協会のひとたちも、いろんな人からいろんな声を聞いているので、もちろん、いろいろ考えているわけです。漫画業界の若い人たちは、漫画家協会に対して「なんとかしてくれ~!」と甘えたことを言ってくるけど(笑)。協会だって、考えてるんですよ(笑)。生成AIなんて、使えるようになってからまだ1~2年なわけですから。われわれだって、はじめて直面しているわけですよ。どう扱ったらいいかなんて、まだわかんないわけですよ。われわれも考え中なんです。
―――みんな、「わかりやすい簡単な正解を早く欲しがってる」んだと思うんですよね。確かに、それは、「甘え」なんだと思うんです。わかりやすい正解がはじめっからあるわけじゃないですものね。議論のプロセスを経て、対話を通じて、少しずつ、社会の中に、納得感のある「答え」が生まれていくわけですよね。しかも、それだって、時代・状況の変化によって、またどんどん変わっていくわけですよね。
(森川)絵を描く人間にとっては、「絵を描く道具がひとつ増えただけ」って話なんですよ。こういうこと言うと、また炎上するんですけどね(笑)。それでも言いますけど(笑)。漫画家っていうのは、いまね、だいたいデジタルで描いてるわけですよ。紙には描いてないわけです。でもね、僕はね、いまだに、紙に、Gペンで描いてるわけです。デジタルすら使ってないわけです。だから、僕は、たぶん、AIも使わないんです。でもね、みんな、ペンを捨てて、デジタルの世界に行って、紙を捨てていったわけじゃないですか。そこに、生成AIという新しい道具が出てきたわけですからね。だったら、同じように、有効に使っていけるようにしたらいいんじゃないの?って思うわけですけどね。自動車にもスピード規制とかあるわけでしょ。生成AIだって、もしも問題があるなら、規制を考えていったらいいわけでね。僕は、規制っていうのは大嫌いなんだけどね。「不健全図書」の件だって、あんな規制があったわけだけど、あの規制をこうして緩和するのに60年かかったわけだからね(笑)。規制って、一回作られると、そうなっちゃうわけですよ。AIを規制してくれ、って言うんだけど、一回規制すると、100年続いちゃうわけですよ。それって大変なことですよ、って思ってるの。
―――規制することで、物事の「可能性」が狭められちゃいますよね。そうやって規制していく方向性だけじゃなくて、「AIを使ったらこういう描き方ができるんだ!」みたいな発展的な方向性でも盛り上がっていくといいですよね。新しい可能性がどんどん出てきて、漫画表現がどんどん発展していくといいですよね。創意工夫のなかで発展が生まれるわけですものね。
(森川)そうそう、それでいいと思うんです。それでね、そうなっていくと、結果的にどうなっていくかっていうと、漫画家の世界だけじゃなくて、画家の世界とかね、いろんな世界で、デジタルのコピーじゃない、原画みたいな、「世界に一点しかないもの」の価値が見直されていくと思うんですよね。そういう世の中になっていったほうがいいんじゃないですかね。
―――ありがとうございます。近視眼的に考えて「賛成」「反対」と感情的に言い合うだけでなく、過去、それから未来を見通しながら対話をしていくことの大切さを教えていただきました。今日この時だけじゃなく、この世界には過去と未来がある、ということですよね。対話によって未来を切り拓いていく勇気をいただきました。本当にありがとうございました。
インタビューを終えて ~森川先生との対話~
▼強いって、いったいどんな気持ちだろう
―――インタビューはここまでなのですが、最後にひとつだけ、どうしても、『はじめの一歩』の原作者である森川先生に伺わせていただきたいのです。それは、フリーランスみんながきっと「聞きたい」と思うことだと思うのですが、それは、「強いって、いったいどんな気持ちなんだろう」ってことなんですよね。そして、「どうしたら強くなれる?」ってことです。民間の調査では、日本で働く人およそ6,500万人のうち、約1,577万人、つまり、約4人に1人が、副業・兼業を含む広義のフリーランスとして働くひと(業務委託、請負等)であるのだそうです。

(参考)厚生労働省|連合のフリーランス支援の取り組みと課題認識
いっぽうで、連合の調査ではフリーランスとして働くうえで、収入面で「満足している」と思えている人は、26.3%にとどまっています。
(参考)連合|フリーランスとして働く人の意識・実態調査2024
年収200万円を切ってしまっているような・・・、月10万円前後しか稼げていない、というようなフリーランスもたくさんいると言われています。そうした状況にあって、たとえ仕事の中で理不尽なことがあったとしても「声をあげられない」、いわば「弱い立場にある」フリーランスも多いと言われています。そうした「弱い立場にあるフリーランス」に向けて、なにかメッセージをいただけませんでしょうか。
(森川)難しいね。・・・ついこないだね、なんかの番組で、「スランプの解消法」を聞かれたんですよ。でね、僕はね、「スランプになったことがない」、って言ったんだけど、驚かれてね(笑)。「さすがですね!」とか言われたんだけど(笑)、そういう意味じゃなくてね(笑)。「スランプ」っていうのは、「いままでできていた人ができなくなってしまう」のが「スランプ」なわけですよ。でね、僕はね、漫画の才能がないからね、いままで一度も「できた」試しがないわけですよ。だから、毎日積み重ねていくしかないわけです。いまだにね。僕より絵ウマい、漫画ウマい、ってやつ、いっぱいいるからね。だから僕はね、いつだって、自分のこと、ヘタだな、って思ってるわけ。いつもヘタなんです。スランプなんてないの。フリーランス、それでいいんじゃないですか!不安になってしまうのかもしれないけど、不安で当たり前なんですよ。それを通常にしましょう!そういう人生を選んだんですから!あとは、ひとりで悩まないことですね。絶対、先人、先輩がいますから。絶対、知恵を貸してくれますから。世の中には、優しい人いっぱいいますからね。

―――森川先生、熱いメッセージをありがとうございます!不安は当然。でも、不安だからといって、それで止まっちゃってたら前に進めないし、一歩ずつ、練習を積み重ねて、一歩ずつ、仕事を積み重ねていくしかない、ということですよね。そして、本当にしんどい時は、相談すれば、絶対に先輩が助けてくれる、と。そういうメッセージが、フリーランスみんなの「安心」と「勇気」につながると思います。
(森川)だいたいね、成功してる人は、人の数倍失敗してるんですよ。僕で言うと、連載5本やってね。続いたのは『はじめの一歩』だけでね。他は全部打ち切りだったんですよ。打率いいわけじゃないんです。どんな野球のバッターだって、3割打てば褒められるわけでしょ。ということは、7割失敗してるわけよ。だからね、「勇気」なんてないんですよ(笑)。僕だって「勇気」ないですよ。ちょっと気は強いですけどね(笑)。
―――森川先生は、15歳で、出版社に持ち込みをされた、と、Webの記事で読みました。「客観的な評価を知りたかった」から、持ち込みをしたんだ、と。自分に足りない部分をちゃんと理解して、そこを磨きたかったんだ、と。やっぱり、不安でも、一回、勇気をもって挑戦してみないと、じぶんの現在位置がわからないわけで、課題もわからないし、成長できないわけですよね。
(参考)CLIPSTUDIO|イラスト・マンガ描き方ナビ|株式会社セルシス
(森川)思い出した、思い出した。たしかに、その時は、「勇気」がいったかな。中学生だったからね。原稿描いて、もっていって、読んでもらう、っていうのは、勇気がいることでした。でもね、そこがゴールじゃなかったんで。おそらく10年くらい修行しなきゃいけないと思ってましたんでね。どんな修行をしなきゃいけないかをちゃんと知りたいと思って。それで持ち込んだんです。漫画の描き方なんてね、学校じゃ教えてくれないからね。でもね、僕、ほんとは10年修行したかったんだけど、18歳の時に最初の連載がはじまっちゃったわけ。そして、連載されたあと、すぐに打ち切りになってしまったわけです。いい気になって描いたのに。才能がなかったわけですよね。そういう現実を見て、「大人の判断が間違ってた」と思いましたよ。10年修行したかったのに、自動的に世の中に出されちゃってね。その時は、悔しかったね。それから、21歳の時に3本目の連載が打ち切りになってね。その時は、もう、子供も生まれてましたからね。家族のためにもお金稼がなきゃ、って思ってましたからね。それで、『はじめの一歩』の連載をはじめようってことで、編集会議に出したんだ。そしたらね、「もう3回失敗してるから使えない」って言われたんだ。まだ、その時、僕、21歳だよ(笑)。まだ子どもなのに、「お前はもういらない」って言われたんだ(笑)。悔しかったよね。で、『はじめの一歩』が成功した、ってようやく思えるようになったのが25~26歳くらいの頃でね。連載から2~3年経って、あ、軌道に乗るな、って思えたわけ。そう考えると、やっぱり、はじめて漫画を持ち込んだ15歳の時から、10年かかってるわけ。見通しは間違ってなかった。
―――15歳から計算すると10年。
(森川)そう。だからね、何事も10年かかるんですよ。みんなね、「成功したい」っていうんだけどさ。すぐ成功したいんでしょうね(笑)。いやいや、10年かかりますよ、って。でもね、10年なんて、あっという間なんですよ。振り返ると、あっという間。
―――無我夢中でやっていれば、10年なんて、あっという間だと。ある程度の辛抱は必要なんですね。
(森川)もともとが、お金を稼ぐためにはじめた職業ではないのでね。われわれの世代は、漫画家といえば「トキワ荘物語」のイメージですからね。もともと、漫画家っていうのは貧乏なんだ、って思ってましたからね。それでも、その道を選んでるわけですから。僕は18歳で一人暮らし始めたんですけど、おにぎり屋さんが近くにあって、おにぎり一個80円で売ってたんだけど、おにぎり一個買ってきて、みっつに割って、朝・昼・晩、ですからね。毎日そんな感じでした。電気もガスも止まってるし。電話もね。アパートの家賃が2万8千円で。でもね、楽しかったんですよ!別に、お金持ちになりたいと思ってたわけじゃないからね。でもね、まだ、個人情報保護法案ができる前、新聞に、税金額、長者番付みたいなものが載っててね。それを見たら、文化人枠の一番がだいたい漫画家でね。「なんだ、漫画家って儲かるんじゃん!」って後から知ってね(笑)。いまの40代より下の人たちって「漫画って儲かる」っていうイメージがあるんだと思うんですけど、そういう気持ちで始めると、厳しいでしょうね。それでやり始めると、「こんなに苦しいのか」ってなっちゃうと思うから。
―――どんな思いで今の仕事をしようと思ったのか。その思いが、自分を支えてくれる、ということですね。
(森川)だいたいね、週刊連載できる人って、週刊少年マガジンでいうと30人弱くらいなんですよ。で、年間でだいたい2本から4本の打ち切りがあるわけです。ってことは、年間で16%のリストラが行われていく、ってことになるわけです(笑)。そんな業界ないじゃないですか(笑)。漫画家の業界っていうのは、そういう厳しい業界なんですよ、って。みなさん、そう思ってないですよね、って思いますよ。「生成AIに漫画家の仕事を奪われる」っていいますけど、何度も言いますが、仕事を奪うのはAIじゃないですから。人間ですから。毎年20%弱のリストラ対象にならないように、みんながんばってるわけです。みんな不安なんですけど、不安を感じてる間もなく、次の原稿書かなくちゃ、っていう感じなんです。たぶんね、X(Twitter)とかで騒いでる人たちっていうのは、そのへんをわかっていないんだとおもうんですよね。みんな、本当に厳しい中、がんばってるんですよね。
―――だからこそ、その厳しさを分かったうえで、自分で選んだ道であるからこそ、理不尽なことに対しては、「違うんじゃないの」と思うわけですよね。それが、「発言をする勇気」、「対話をしようという原動力」になるということなのでしょうか。
(森川)そうですね、国の事情で、振り回されるのは、ごめんですよね。ほんとにね。それはいやだなあ。あとは、いじめ、ですね。僕は、ある時、新しい連載を始めたい、という時に、ネームを切って編集長に見せよう、ってなって、見せにいったわけです。喧嘩漫画、不良漫画を描いたんです。そしたら、そのネームを読んだ編集長が、読み終わって、ため息をついて、そのへんにネームをバラまいたんですよ。「喧嘩なんてしたことないやつが喧嘩漫画なんて描くからこんなんになるんだよ」って言われてね。その瞬間にブッきれちゃってね(笑)。喧嘩しちゃったよ(笑)。こっちは赤ん坊もいるからね。なんとかしなきゃっていう気持ちで一生懸命描いたネームだったからね。それを投げ捨てられて、拾えよ、って言われたわけだからね。今思うと、その、ネームを見せに行った編集長は、もともと僕が連載していたマンガ誌の編集長と、仲が悪かったんですよ。売上の面でもライバル関係にあったからね。それで、僕のことも嫌ってたんだろうね。だからねえ、フリーランスとしての「悔しさ」っていうのは、僕も味わってるんですよ。理不尽な目にあってるの。だからねえ、みんなね、キレたらいいんですよ(笑)。だれかがキレないと、改善されないから(笑)。それ以来、そのマンガ誌の編集部では、「ネームは丁重に扱う」っていうことになりましたからね(笑)。
―――ネームは魂ですものね。
(森川)もちろん、喧嘩じゃなくて、理路整然と申し立てができれば、一番よかったわけだけどね。我慢しちゃうと、我慢しちゃうのが慣例になっちゃいますからね。言ったらいいんですよ。言った方が得だしね。我慢しても得なことないからね。
―――森川先生、ありがとうございます。「強いって、いったい、どんな気持ちなのか」、わかってきたような気がします。勇気をもって、「はじめの一言」を発してみたいと思います!
編集長より:
いつもX(Twitter)などでご自身のお考えを積極的に発信しておられる漫画家の森川ジョージ先生へのインタビューは、とても緊張しました。ですが、インタビュー冒頭で、森川先生に「フランクに話してくださいね」とおっしゃっていただけて、フッと力が抜けました。絶大な人気を誇る超有名な漫画家の先生であるにもかかわらず、偉ぶったり、相手を怖がらせてマウントしようとされることなく、相手が話しやすいように絶えず気を遣ってくださる森川先生の姿に、対話における最も大切な心構えを見た思いでした。
森川先生からは、「言いたいことがあるなら言えばいいんだ!」というだけの<強者の論理>ではなく、「待っていれば(耐えていれば)いつか必ず誰かが助けに来てくれるんだ」というだけの<弱者の論理>でもない、ひとりの人間として勇気をもって対話をする際の大切なポイントを教わったように思います。事実と感情をしっかり切り分けて、冷静に、事実をもとに、現実的な相談・提案をすること。まず、自身が知り得た情報をオープンに発信することで、いろいろな人たちからの情報や知恵を集めていくこと。たとえ、最初の時点での自分の認識が間違っていたとしても、対話を通じて自分の認識を変化させていけばよいのだ、ということ。だから、なにより、「はじめの一言」を発することが大切なんだ、ということ。こうした、非常に実践的な方法論を、教えて頂いたように思います。
「弱い立場にある」とされるフリーランスですが、とはいえ、厳しい道であることを承知の上で、自分で選んだ道ですから、甘えるわけにはいきません。理不尽な目にあった時、「泣いていれば誰かが助けてくれる」というほど世の中は甘くはない、ということ。「まず自分が<はじめの一歩>を踏み出さないと、決して問題は解決されないのだ」、ということ。そして、「対話をオープンに行うことで、孤独に追い込まれることなく、まわりの助けを借りながら、議論を進めていくことができるのだ」、ということ。改めて肝に銘じました。「未来は、切り拓ける」。特集「フリミラ」を読んで、そのように感じて頂けたなら、とても嬉しく思います。お読みくださり、本当にありがとうございました。
Wor-Q編集長 旦悠輔(フリーランス)

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