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新・特集シリーズ第2号<前編> 「声優の働きかた、その<あるべき未来>を描きだそう」突き詰めると、この国の<余裕のなさ>に行き着く ーーーなぜ声優の収入レベルは上がらないのか

2024年8月19日

 

特集公開日:2024年6月7日 by Wor-Q MAGAZINE 編集部

自身もフリーランスとして働いているWor-Q編集長の旦悠輔が、さまざまな業界のフリーランス当事者と対話をしながら、フリーランスの未来の「あるべき姿」を皆さんと一緒に考えていく新特集シリーズ「フリミラ!」。

第2号のテーマは「声優の働きかた、その<あるべき未来>を描きだそう」です。フリーランスとして働く声優さんと行った対談のレポートをお届けします。


きっと誰しもが、アニメやゲーム、そして、外国語映画に魅せられた経験をもっているはずです。アニメやゲームのキャラクターボイス(CV)のほか、外国語映画の吹き替え、ナレーションなど、声優さんの仕事のフィールドは多岐に渡ります。演技によって登場人物に魂を吹き込み、観る人を物語の世界に没入させるのは、声優さんの力によるものです。

ところで皆さんは、声優の仕事、声優として働いている人達の「働きかた」について、どれくらいのことを知っていますか。「人気の仕事だし、華やかで、みんな儲かっていそう」「事務所に所属しているから、事務所に守られていて、お給料も安定してそう」。なんとなく、そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし、実際は、大多数の声優さんは、事務所と契約を交わして働く「個人事業主(フリーランス)」であって、格差も大きく、稼いでいる声優さんはほんの一握りだといいます。ほとんどの声優さんが、所得水準が低く、アルバイトや、声優スクールでの講師業などを兼ねながら、生計を立てているといいます。

このままでは、プロの声優という職業が世の中から失われてしまうーーー。声優の厳しい世界で経験を積み重ねてこられた声優のAさんは、そのような危機感を率直にお話くださいました。誰しもが知る役柄を演じてこられ、業界でも名の知れた声優のAさんですら、「声優業の未来は厳しい」とおっしゃるのです。いや、誰よりも業界で真剣に仕事を積み重ねてこられたAさんだからこそ、「このままでは厳しい」「何とかしなければならない」という危機感を強くもっておられるのかもしれません。

今回の特集、「職業としての声優業」に関心があるかただけでなく、アニメやゲーム、外国語映画を愛し、楽しんできた経験をもつすべての方にお読みいただきたいと思います。いや、第1回の「Amazonドライバー編」でも書きましたが、あらゆる職業、あらゆる働きかたで働いている人達が安心して働くことのできる世の中を作っていくことは、この社会全体を「安心できる社会」へと変えていく中心的な取り組みになるはずです。ぜひ、現代社会を生きるすべてのかたに、今回の特集をお読みいただきたいと思います。

 

声優の仕事だけで生活していくことができる人は、ほんの一握りしかいない

 

ーーーこんにちは。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。今回の特集では、まず<前編>で、声優さんの働きかたを知らない一般のかたがたにも、「声優さんが、どんなふうに仕事をしていて、どんな課題を抱えておられるのか」、理解していただけるようなお話をいただけたらと思っています。それから<後編>で、「声優が安心して働くことのできる<あるべき未来>の形とはどのようなものか」「どうすれば、そうした<あるべき未来>の形を作っていくことができるのか」について、対話をさせていただけたらと思っています。本日は宜しくお願いいたします。

 

よろしくおねがいします。

 

ーーーまず、早速ですが、声優業を営んでおられる皆さんの収入の水準について、現状をお聞かせいただきたいと思います。有志の声優さんが立ち上げた「VOICTION(ボイクション)」というグループが2022年に行った「声優の収入実態調査」によりますと、「声優人口は1万人を越えると言われますが、その収入実態は7割以上が年収300万円以下」とあります。そもそも声優を業として営んでおられる方が1万人以上おられるということに驚きますが、それだけの数の方が職業とされている大きな業界であるにもかかわらず、 7割以上の方が、年収、つまり、経費や税金を引く前の純然たる収入が、300万円以下しかない、という結果が出ていたことに驚きました。ということは、手取りはもっともっと少ない、ということですよね。実際に、こういう状況なのでしょうか?

 

VOICTION

VOICTION調査|声優の7割以上は年収300万円以下、2割強がインボイス制度導入で廃業を検討(PR TIMES)

 

この「調査はインターネット調査なので、回答者がやや若年層に寄っているかもしれませんが、声優が多く加入している団体である「日本俳優連合」が同時期に行った「声優の収入に関する調査」の結果を見ても同じような分布となっていました。 「日俳連」に加入しているのはほとんどが30代以上ですが、新人ではない声優として経験を重ねた人たちが加入する「日俳連」の調査結果を見ても同じ分布になっている、ということは「年齢や経験年数を重ねていけば収入レベルが上がっていくわけでもない」ということを意味しているのだと思います。業界全体として、年齢や経験年数問わず「稼いでいる人はほんの一握りで、大多数の人は声優の仕事だけでは生活していくことが難しい水準の収入しか得られていない」という状況にある、と言ってよいと思います。

 

日俳連(協同組合日本俳優連合) 

 

 

ーーー「声優さんは稼げる仕事だ」というイメージをもっておられる方が世の中には多いと思いますが、実際は違うのですね。

 

もちろん、稼いでいる方もいますが、それはテレビで名前をよく見るようなほんの一握りだけです。VOICTIONの調査でも、収入が1,000万円以上と回答された方は5%しかいません。

 

ーーーたったの5%ですか。しかも、1,000万円といっても、あくまでも収入ですから、経費や税金を引いた残りで生活していく、と考えれば、声優を本業(専業)として、それだけで生計を立てて安心して人生を送っていくことができる最低限のレベルといってもいいと思いますが、そのレベルに達している方が、たったの5%しかいない、ということなのですね。

 

ちなみに日俳連の調査でも、1000万以上は7%しかいませんでした。ほんの一握りです。そうしたほんの一握りの人のイメージだけで、「声優=稼いでいる」という世の中のイメージができあがっているのだと思います。声優に限らず、芸能の世界はそういうものなのかもしれませんが・・・。

 

「制作費が上がらない」ーーー30年以上続いている不況が問題の根源

 

ーーーなぜ、声優さんの収入は、そんなに低いのでしょうか。声優の世界には、日俳連さんが定めた「ランク制」という仕組みがあると聞きます。声優さんのランクによって、報酬の額が決定されるだと聞きますが。

 

外画動画出演実務運用表|日俳連

 

声優の世界には「ランク制」という仕組みがありますが、そうした仕組みがあることで最低限の報酬水準が維持されているところがあります。例えば、「ランク制」によって、最低でも、つまり一番下の新人のランクでも、30分番組1本(1話分)の仕事で15,000円は払わないといけないよ、ということが定められてる。それによって、「それ以下に値崩れしていくことはない」ということです。「新人なんだから」とか「名前(役名)を付けてあげるから、実績・宣伝になるから」とかの理由をつけて「無報酬」で働かせようとするのを防ぐ役割を果たしているわけです。こうした制度で守られていない、声優ではない役者の世界では、そういうことが実際に起きていますから。

 

ーーーなるほど、そうしたランク制によって守られていながらも、それでも、十分な収入が得ることができない、ということなのですね。

 

「ランク制」に関しては、仕事が増えて忙しくなってきたら、仕事量を調整するためにランクを上げることもできますし、声優にとっては「自分でコントロールできるもの」だから、「声優を守る」機能を果たしてくれている仕組みだと思います。ただ、じゃあなんでみんな自分で自分のランクを上げていかないのかというと、大元の「制作費」が限られているのを知っているからなんですね。大元の制作費が限られているわけですから、ランクを上げていくと、仕事が入りづらくなるんです。

 

ーーーということは、声優の収入が増えない要因を突き詰めていくと、最大の課題は「制作費が増えない」ことだ、と。

 

制作費自体が、この30年以上、変わっていない(=増えていない)。だから、当然、キャストにかけられるキャスト費(=声優に支払うことのできる報酬の総額)も変わっていない(=増えていない)。むしろ、「下がってる」というのが実情だと思います。制作会社さんだって、出そうと思っても出せないわけですから。間にいる事務所が悪いわけでもなくて。ほとんどの声優は、事務所と契約して、事務所を通じて仕事を得ていますが、制作会社から支払われる報酬のうち20〜40%程度は、事務所にマネージメント報酬として引かれます。ですが、別に、事務所にものすごい暴利の手数料を抜かれて声優が搾取されているような状況になっているかというと、そういう状況にあるわけでもない。事務所だって、経営していかなきゃいけないし、常勤者もいて、われわれのために働いてくれているわけだから、手数料(報酬の分配)を得るのは当然のことです。大手の事務所だってギリギリのはずです。だから、事務所も、なんとか経営を維持するために、養成機関(スクール)等の事業で利益を確保しているところが多いのではないかと思います。

 

ーーー事務所と声優さんの間の契約条件の問題でもなくて、とにかく突き詰めれば、最大の課題は「制作費が増えない」ことだ、と。

 

最近は、事務所と声優の間でも、口約束としての契約だけじゃなくて、書面として「契約書」を交わすケースが増えてきています。そこには、事務所側が果たすべき役割も、報酬の分配率も、基本的には明記されています。事務所によって千差万別ですが、一般的には、声優側が契約でものすごく理不尽に縛られているということもないですし。 2024年にフリーランス新法が施行されたら、ますますそれが「普通」のことになるでしょう。なので、事務所と声優の間の構造的な問題というよりは「制作費が増えない」、さらに言えば、30年以上続いている不況の影響だと思います。

 

フリーランス・事業者間取引適正化等法は2024年秋頃までに施行予定|中小企業庁

 

業界全体として「余裕がない」ーーー広がるいっぽうの格差

 

ーーー「制作費が増えない」のも、さらに突き詰めれば、長く続く経済不況が問題の根源だ、ということですね。アニメやゲーム、映画制作の産業全体に余裕がなくなっている、ということですね。

 

分配できる「パイ」が小さくなっているんです。なのに、演技力以外に求められるものが増えてきている。どういうことかというと、演技力ではなくて「知名度」、さらに言うと、「ファンがたくさんいて、ファンを連れてくる力を持っているかどうか」、そういうものが求められるようになってきているんです。「役に合ってる/合ってない」とか、「ちゃんと演技ができるか」よりも、そういう「ファンを集めることのできる売れっ子」に仕事が集まる傾向があります

 

ーーーなるほど、アニメやゲーム、映画制作の産業全体に余裕がなくなってきているから、「とにかく作品が売れるように、人気のある売れっ子に仕事を頼みたい」となって、そういうタイプの人に仕事が集中する構造になってきてしまっているのですね。不況下で、業界全体として「高いコストパフォーマンス(低コストで、高い売上の達成を目指すこと)」を求める意識が異常に強まってしまって、余裕がないんでしょうね。とにかく、短期的に生き残るために必死、という。

 

そうなると、いわゆる「抜擢」というか「挑戦」というか、「今回はこの人にお願いしてみよう」というようなことも減ってきてしまう「チャンス」も減ってしまい、いろいろな才能が育つ機会がどんどん失われてますます格差が広がっていきます。

 

失われつつある、本物の教育

 

ーーー「機会が失われることで、いろいろな才能が育っていく可能性が失われてしまう」というのは、中長期的にみて、産業自体を大きく弱らせることになりますし、その意味で「致命的」なことですよね。さきほど、養成機関(専門学校・スクール)で経営を成り立たせている声優事務所さんも多いという話がありましたが、そうした、養成機関(専門学校・スクール)をめぐる現状の課題としてはどのようなものがありますか。

 

実際のところ、声優業だけでは生計を立てることが難しい声優たちの副業でいちばん多いのは講師業だと思います。先程の話のとおり、今はもう、経験と実力を備えたベテランの声優よりも、ファンを連れてくる力をもった人に仕事がいくので、年を重ねた人はみんな講師をやってる印象です。現場に、実力のあるベテランの居場所がなくて、みんな講師をしてる。加えて、「経験はあるんだけど、今の現場を知らない人」が学校で若い子を教えている状況も生まれていて、それもまた問題だなと思います。

 

ーーーベテランが、養成機関(専門学校・スクール)の場で声優を目指す若者を教えていく、ということ自体は、ベテランの収入の多角化、そして「技能の伝承」という観点からも、「良いこと」のようにも思えますが、現状の養成機関(専門学校・スクール)のありかたは、そうはなっていない、つまり、本当に伝えるべき技能の伝承の場になっていない、ということなのでしょうか。

 

どうしても、「授業料をとってやる」という以上、カリキュラムになってしまう。カリキュラムとなると、当然優劣をつけなくちゃいけなくなる。そうなると、生徒側も、講師に、いい点をつけてもらうためのベクトルを働かせるようになり「技能を学び・伸ばす」ということではなくて、 「いい点数を取る」ことがゴールになってしまって結果、現場であまり役に立たないことしか得られない、即戦力にならない。まあこれは、声優の養成機関(専門学校・スクール)に限らず、世の中の、学校でも塾でも、一般的にどこもそうなんでしょうが。

 

ーーーカリキュラムに沿って点数を付ける形で教育をしていくとなりますと、どうしても、「正解を教え」「正解に合わせにいく」ような形になってしまいますし、「標準化」されたものになってしまいそうです。

 

専門学校が増えたということもあって、「きちんと口跡(こうせき)よく声が出る」であるとか、「きちんと挨拶ができる」であるとか、大事なことではあるんですがこう、明朝体のような、「きっちりした習字ができます」みたいな声の人ばっかりになっちゃっていて、非常に面白くないな、と思いますし、それは、業界の未来を考えた時にも、深刻な課題だと思います。

 

ーーー声優業の「入口」である養成機関(専門学校・スクール)が、真の意味で技能を伸ばすことを主目的とした場になっておらず、声優業だけで生計を立てることが難しい声優さんたちが副業をして収入を得たり、声優さんのマネージメント収入だけでは経営を成り立たせることが難しい声優事務所さんがスクール事業によって収入を得ることが主目的となってしまっているのだとすると、「可能性をもった若者が、努力と学びによって技能を伸ばし、機会によって才能を開花させ、やがて、実力と経験に応じた高い報酬が得られるようになっていく」という道筋が最初から躓いて(つまづいて)しまっているようにも思えます。

 

いずれにしても、養成機関(専門学校・スクール) の存在そのものが悪いわけではなくて、「学校による」というか、「先生による」と思いますし、「先生の言うことがすべてではない」とか、「どの先生について学んでいこうとするか」とか、「どこで何を学ぶかを自分でアンテナを立てて探ろうとできるか」とか、そうした、生徒側の選択能力の問題、もっといえば自覚の問題だとも言えると思います。それは、突き詰めれば、日本の学校教育のありかたそのものの問題だ、とも思います。

 

 

失われつつある、本物の現場

 

ーーー養成機関(専門学校・スクール) ではなかなか「プロとして本当に必要な技能」を磨く「機会」が得られないのだとすると、やはり重要なのは「現場での学び」になるのではと思いますが、昨今の声優の仕事の「現場」は、そのような(若手にとっての)「学びの場」として機能しているでしょうか。

 

私が新人の頃は、現場で沢山のことを先輩に指摘してもらえました。とても怖かったですが、「標準を逸脱して、自分なりの文字を自由に書ける(自分なりの演技ができる)きっかけ」をもらえたんです。今の現場は、そういうことを指摘できる雰囲気ではなくなってきています。「コンプライアンス意識」というか、「ハラスメントと言われることを恐れる空気」も多少ある、一番はベテランと新人の比率が逆転したこと。制作費が減ってきている影響もありで、上の世代の厳しい先輩たちが急速に現場からいなくなった。中堅の私たちも怖がらせずにちゃんと伝えていきたいと思っているんですが、拘束時間の問題や時代の変化で、なかなか難しいですね。私もまだまだ先輩に囲まれて指摘されたいです。

 

ーーー昨今の現場からは、「若手が本物になるための厳しい指摘、本当にいいものをつくるために必要な指摘」をしてくれるベテランの存在、そして、そうしたベテランがベテランらしくふるまえる現場の空気が失われてしまっている、ということでしょうか。

 

加えて、若い人たちの側の置かれている「状況」もあると思いますね。現場で、先輩の背中から受けとれるものって、ものすごく大きいわけです。でも、今は学校で学んだ「いい点」を取るのに一生懸命で「いいものを知ろう」とするアンテナを下げちゃってる感じがします。だから、現場で周りががいい芝居をしていても、もはや、それを感じ取れない。。感じ取れる人も中にはいて時に嬉しくなることもありますが、もったいないと思うことが多いです。

 

失われつつある、本物の作品

 

ーーー業界全体が、そういう空気になってきてしまっているのですね。ベテランの声優さんも、若手の声優さんも。声優さんサイドだけでなく、現場のスタッフさんをはじめとする制作サイドも。いいものを追求していくことが難しい空気になってきてしまっている、ということなんでしょうか。

 

もちろんみんな一生懸命です。作品ごと、現場ごとに、空気は違いますし。ただ、業界を全体的にみれば、状況が大きく変わってきているのは事実だと思います。もともとは、現場っていうのは、「作品」がゴールだったはず。いい作品を作りあげることがゴールで、そのための現場だったわけです。だからこそ、みんな厳しかった。その厳しさは「あったかさ」でもありそこに学びもあったんです。でも、いまや、「作品」は通過点になっちゃってるんですよね。「作品」がゴールなんじゃなくて、「作品」を通じて、新しい、人気のある若い「売れっ子」を創り出すことがゴールになってしまっていたり、「売れる商品」にするために人気の売れっ子を揃えたものになってしまっている。それは業界の未来にとっても致命的なことだと思いますね。

 

ーーー「いい作品を作ろう」というベクトルが失われてしまった。それは本当に、中長期的にみて、危機ですね。

 

全体的に、クオリティを求めようという「気迫」がなくなってきているんだと思います。ベテランであれ若手であれ、互いに現場で、かかわりを求めなくなってきている。コロナ禍の影響や時間の制約もありどちら側も、「とりあえず滞りなく現場を進めて形にしなければ」というふうになってきてしまっている。役者ひとりひとりがパズルのピースみたいになっていて、ただ単に「はめにいっている」みたいなところがあるんです。

 

ーーー仕事に対する考え方(意識)が大きく変わってきてしまっているんですね。

 

昔は、「このキャストが中心になって、この人がスタジオでこういうサポートをするから、現場でこういうトルネード(化学反応)が起きるだろう。だから、こういう仕上がりになる」ということを計算してキャスティングをして現場を作っているディレクターさんがいた。でも、今はもうピースをはめるだけになってしまっていて。何の風も起きません(苦笑)。みんな割り切っちゃって個人のこと、つまり、「自分自身のパートのクオリティ」にこだわるところで終わっちゃうわけです。だから、集団芸というか、コンビ芸の境地までいかない。

 

ーーー集団芸、コンビ芸。

 

役者と役者の間の空気感から生まれる芸の境地、ということですね。その、余白・行間みたいなものの中に何かがあると信じて、私たちはやっている。役者だけじゃないと思う。アニメーターさんも含めて、現場でのプロ同士の熱量のうねりが「いい作品」を生むということは絶対あると思うんです。でも今は、そういうことがあんまり重視されてないな、と寂しく思います。。個々ではクオリティを追求して、いい作品をつくるためのベストの作り方をする、というところは変わらないんですがいまは、そういう「クオリティを追求しよう」というベクトルが、分散してしまっている

 

ーーーなぜ、現場が変わってきてしまっているのでしょう。なぜ、「クオリティを追求しよう」という熱量が消えつつあるのでしょうか。

 

それはやっぱり、繰り返しますけど、制作費です。パーツをはめにいくような現場じゃなくて、化学反応で風が生まれるような現場を可能にする「潤沢な予算」がなくなってしまった。化学反応を作りだすことができるような感性があるディレクターさんがいて、現場で風を生めるような役者が集まって、みんなで一緒に録る、みたいな舞台を整えるには「ある程度の予算」が必要です。そういう<余裕>がなくなってきている、ということじゃないでしょうか。もう、どこもかしこもお金も時間も気持ちもなにもかも<余裕>がなさすぎると思います。そういうところからは<文化>は生まれないと思います。

 

ーーー貴重なお話をお聞かせくださり本当にありがとうございました。「声優さんの収入レベルが低く、格差も非常に大きい」という問題は、突き詰めれば「制作費の問題」、もっと突き詰めれば、長く続く「経済不況の問題」に辿り着くことがとてもよくわかりました。なおかつ、そうした苦しい状況が長く続く中で、「いい作品」が生み出されるために必要な現場の環境も壊れつつあり、「若手が育ちにくい環境」が広がりつつあることもわかりました。これでは、格差は広がるばかり、未来に向けた可能性の芽は育たず、やがて縮小均衡になってしまいますよね。時間が経てば経つほど、先細っていってしまいます。<後編>では、「どんな形に変わっていけば理想的なのか?」「どうすれば、変化を起こしていくことができるのか?」について、徹底的に対話させていただけたらと思います。

 

(了)


編集長より

<前編>では、フリーランスとして働く声優さんが抱えている課題について徹底的に掘り下げていきました。業界全体が、生き残るためにはコストパフォーマンスを追求せざるを得ない厳しい状況に置かれていて、とてもではないけれども、先々を見据えた育成に時間やお金を注ぐ余裕がない状況が明らかになりました。ではどうしたら、状況を変えていくことが出来るのでしょう? 簡単なことではありません。ひょっとしたら、声優さんや、声優さんが属する業界(アニメ産業・ゲーム産業・映画産業・・・)だけで、状況を変えることは難しいかもしれません。では、諦めるしかないのでしょうか? そんなことはないはずです。鍵は、業界を取り巻く他の周辺産業、つまり経済全体、社会全体もっと言えばそうした<全体>に影響を及ぼす「文化」や「教育」、そして「政治」そのものを動かしていくことが重要になるはずです。<後編>では、踏み込んで、<あるべき未来>への道を描き出していきます。

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