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相談事例集
解説
あなたは、歯科医院などから、入れ歯、歯の被せ物、歯の詰め物、矯正装置などの歯科技工物の作成や加工、修理などの注文を受けているのだと思います。歯科医院等の資本金が1000万円を超えていれば、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が適用される可能性があります(製造委託)。
下請法が適用される場合、親事業者である製作会社には、様々な行為が禁止されることになります(下請法4条)。報酬が安いとのことですが、これは「買いたたきの禁止」にあたる可能性があります(同条1項5号)。下請事業者の給付内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金を不当に定めることは禁止されているのです。この買いたたきにあたるかどうかは、①下請代金の額の決定にあたり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法、②差別的であるかどうか等の決定方法、③通常の対価との乖離状況、④給付に必要な原材料等の価格動向などを考慮して、総合的に判断するものとされています(下請取引適正化推進講習会テキスト)。
過去の取引経緯といっても、歯科医院等から一方的に報酬が決められているのであれば、それは十分な協議が行われているとはいえない可能性があります。そして、同種・類似の取引について、あなたが属する取引地域において一般的に支払われる対価(通常支払われる対価)と乖離しているような報酬であれば、「買いたたき」に該当する可能性があります。なお、歯科技工物に保険が適用される場合、その保険点数は、歯科技工士の技術料が7割、歯科医師の管理料と3割とされています(1988年5月30日付・厚生省告示第165号)。また、労働者である歯科技工士の賃金については、公益社団法人日本歯科技工士会が「歯科技工士基準賃金表」を作成しています。これらを参考に、「通常支払われる対価」を検討することはあり得ます。
さらに、あなたから、原材料費の高騰などを理由に報酬(単価)の引き上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来どおりに報酬(単価)を据え置くことによって、通常支払われる対価を大幅に下回ったような場合も、買いたたきにあたる可能性があります。
公正取引委員会又は中小企業庁に申告し、歯科医院等に指導又は勧告などの措置を求めることが考えられます。その申告等を理由に、歯科医院等が取引の数量を減らしたり、取引を停止するなどの不利益な取扱いをすることも禁止されています(下請法4条1項7号)。 仮に、下請法が適用されない場合でも、取引価格の事前交渉を行わないまま、低い単価を押しつけていれば、独占禁止法で禁止されている「優越的地位の濫用」にあたる可能性があります(独占禁止法2条9項5号)。この場合も、公正取引委員会への申告などを検討することが考えられます。