特集第15号「フリーランスのための【インボイス制度】対応検討マニュアル」(2023年4月17日)
「インボイス制度」の仕組みの説明とともに、フリーランスとして働くひとひとりひとりが「自分自身はどうするか?」を考える際に役立つヒントをわかりやすくまとめています。
2023年4月16日

特集公開日:2023年4月17日 by Wor-Q MAGAZINE 編集部
Wor-Q Magazine 特集第15号のテーマは「フリーランスのための【インボイス制度】対応検討マニュアル」です。いよいよ2023年10月1日より始まる「インボイス制度」。本特集では、 「インボイス制度」の仕組みの説明とともに、フリーランスとして働くひとひとりひとりが「自分自身はどうするか?」を考える際に役立つヒントをわかりやすくまとめています。「インボイス制度」への対応はあくまでも「任意」です。ぜひ、制度についてしっかりと理解して、あなた自身の対応を、決めていってください。

本特集は、さまざまな職種のフリーランスの皆さんとの対話セッションの中でプレゼンテーションされた内容をもとに構成されています。さまざまな職種のフリーランスの皆さんがどのような感想・意見・質問を寄せられたのかについて気になる方は、ぜひ、セッションレポートの記事をお読みください。
参考|Wor-Q Magazine 特集 2023年特別編|シリーズ「インボイス制度について語ろう」第1回セッション(イラストレーター編)レポート
なお、本特集の内容は、随時、内容がアップデート(更新)されていきますのでご了承ください。また、内容に誤りがないよう最大限の注意を払っておりますが、お気づきの点がございましたら、「Wor-Q|お問い合わせ・ご要望フォーム」を通じてWor-Q事務局までご連絡をいただけますと幸いです。なお、本特集に掲載されております内容についてはあくまでも参考情報としていただき、固有の事情について判断に迷われる場合や、より専門的・高度な内容については、最寄りの税務署、ご担当の税理士さんなどの専門家の方にご相談いただくようお願いいたします。また、インボイス制度を巡っては、今後も状況の変化が予想されますので、最新の情報につきましては、必ずご自身でも国税庁ウェブサイト他でご確認を頂きますようお願いいたします。
参考|Wor-Q|お問い合わせ・ご要望フォーム
はじめに
みなさんこんにちは!きょうは、「インボイス制度について語ろう」ということで、セッション(意見交換)をさせていただけたらと思っているんですが、その前に、「インボイス制度ってどんな制度なんだろうか」ということについて、レクチャーをさせていただけたらと思います。レクチャーの内容については、「それくらいの基本的なことは、もう知ってるよ!」というかたもいらっしゃるかもしれません。でも、皆で目線をあわせてディスカッション(議論)するためにも、まず最初に、インボイス制度の仕組みについて、みんなの共通認識を作っていけたらと思っています。
インボイス制度は、細かな部分まで見ていかなければ、実際の影響がわかりにくいものです。このレクチャーでは、よくある一般的な「インボイス制度の説明」だけではなく、「で、実際、フリーランスには、どんな影響が出るんだろう?」ということにフォーカスして、お話をさせていただけたらと思っています。特に、職種によって、実際の仕事の進め方は違うわけですから、そのあたりも考慮しながら、お話をしていけたらと思っています。

複雑な話も、あえてシンプルにして、「要するにどういうことなの?」がわかりやすいように工夫したつもりです。スムーズに理解していただけるよう、リラックスした「話し言葉」で、レクチャーを進めていけたらと思っています!
ではでは、まず、全体像を理解するために、一緒に「目次」を見ておきましょう。はい、目次を見ただけで、「うわっ!」となりますよね(笑)。長々しい漢字の文字列が並んでいて(笑)、なんだかもう、聞く気が失せてしまうかもしれませんが、順番に、話を聞いてみていただけたらと思います(笑)。
目次:Wor-Q Magazine 特集第15号|フリーランスのための【インボイス制度】対応検討マニュアル
第1部:インボイスとは何かを学ぼう
■適格請求書(インボイス)とは
■誰が発行するの?
▼「適格請求書発行事業者」について
■「適格請求書発行事業者」になるには
▼「消費税課税事業者」と「消費税免税事業者」について
■適格請求書等保存方式(=インボイス制度)とは
まずはじめに第1部では、「インボイスって何だろう」っていうことについて、説明をさせていただきます。「よくわからないけど、インボイスって消費税と関係があるんでしょ?」というふうに思っていらっしゃる方、多いと思います。実際、関係があるんですね(笑)。「インボイスと消費税って、どういう関係になってるんだっけ」ということについて、まずざっくり、お話をしていきたいと思います。

第2部:消費税の仕組みを学ぼう
■「消費税」の仕組み(概略)
▼消費税額の計算方法
▼「消費税免税事業者」となる条件
▼「消費税課税事業者」となったら
▼「簡易課税制度」とは
▼「簡易課税制度」の仕組み
▼税額のシミュレーション
そのうえで、第2部で、「じゃあ、そもそも消費税ってどういう仕組みになってるんだっけ?」「どういう計算をして、誰がいくらくらい納付しなければいけないものなんだっけ?」ということを、解説していきたいと思います。税の計算の仕方についての説明ですから、まあ、やっぱりちょっととっつきにくいんですけど、ここをちゃんと理解しておかないと、「で、誰に、どんな影響があるんだっけ?」ということがわからなくなってしまいますので、しっかり説明させていただこうと思います。
きょうは、実際に、ざっくりした金額のシミュレーションも用意しています。「具体的な金額として、どんな人が、だいたいどれくらい、消費税を納付しないといけないんだっけ」というのを見て頂くと、すごく生々しいので、どんな人にどんな影響が出るのか、とてもよく理解していただけるようになると思います。

第3部:あなたはどうする? 考えよう
■いつから(いつまでに)?
■登録しなければならないの?
■登録するとどうなるの?
■登録するにはどうしたらいいの?
■登録したら何をしないといけなくなるの?
■登録したほうがいいの?
そして、最後、第3部で、「じゃあ、実際、わたしはどうしよう?」と皆さんひとりひとりお考えになる際に参考となるような情報を、しっかりお伝えしていきます。これ、大切なことなので、一番最初に強調しておきたいと思うんですが、インボイス制度ーーー厳密には「適格請求書等(インボイス)発行事業者」ーーーに登録するかどうかは、あくまでも<任意>なんです。どんな人であれ、登録するかしないかは、ご自身で決めたらよいのです。逆に言うと、どんな人であれ、自分で決めなければならない、ということですね。
というわけで、ご自身で決めて頂く際の参考となるような、「登録したら何が起こるんだ」ですとか「登録しないとどうなるんだ」みたいなことを、最後の締めくくりとして、お話していけたらと思っています。

Appendix(補足):最新の状況(※2023年4月調査時点)
それから、補足として、大切なことなんですが、ちょうど、昨年末(2022年末)にインボイスに関する議論が国会でなされまして、その後、インボイスに関する閣議決定がなされているんですね。状況に動きがあったんです。このあたりの最新の動き(※2023年4月調査時点)を、しっかりお伝えしていけたらと思っています。
ではでは、さっそく、「第1部」から、レクチャーを始めさせていただきますね!
フリーランスのための【インボイス制度】対応検討マニュアル
1: インボイスとは何かを学ぼう
■ 適格請求書(インボイス)とは
まず、「インボイス」って何でしょうか。そこからはじめましょう。「インボイス」っていうのは、「適格請求書」って呼ばれる「請求書」のことを言うんですね。で、どんな請求書であれば「適格」なのか、ってことなんですけれども、要するに、いつも作ってるような「請求書」に、項目ごとの正確な消費税率と消費税額が書いてあって、それから、「登録番号」が書いてあるものが「適格」な請求書だよ、ってことなんですね。要するにどういうものかっていうのを見て頂いたほうがいいと思うんですが、こういうものです。

雛型も用意しておきましたから、必要な方は、ダウンロードしてご自由にお使いくださいね。
参考|Wor-Q|(2023年10月1日以降、適格請求書発行事業者だけが発行できる)「インボイス(適格請求書)」の雛型(「.docx」形式のWordファイルです)
参考|Wor-Q|(従来型の、一般的な)「請求書」の雛型(「.docx」形式のWordファイルです)
この、「インボイス」の雛型を見て頂くとわかると思うんですが、そんなに複雑なものじゃないんですよね。普段、作って出しておられる「請求書」とそんなに変わらないですよね。
「インボイス」、つまり「適格な請求書」であるためには何が必要かってことなんですけれど、これ、ものすごーく単純にいうと、いままで出しておられた「請求書」に、インボイスを出す事業者としての登録番号を追記するだけ、なんですよね。

もうちょっとしっかり説明しましょう。 「インボイス」、つまり「適格な請求書」であるために必要な要件は6点あります。

1点目、請求する項目の内容に軽減税率対象のものが含まれていれば、そのことの明示。2点目、税率ごとに区分された対価の額と、そこに適用される適用税率ですね。要するに、8%対象のものは8%対象のもの、10%対象のものは10%対象のもの、っていうふうに分けて書くわけですね。そして、3点目、実際に、区分ごとに計算された、消費税の額ですね。で、まあ、どうでしょうか、フリーランスの方、特にイラストレーターさんなどのプロフェッショナルなサービスを提供しておられる方で、軽減税率の8%対象の品目、要するに食品とかですけど、そういうものを扱ってらっしゃる方ってほとんどいらっしゃらないと思うんで、ここは要するに、いままでどおり、請求の対象となる仕事の一覧はこれですよ~、ぜんぶ10%対象ですよ~消費税額はいくらですよ~と書くだけですから、この3点に関しては、いままでと変わらないんですよね。ただ、それをちゃんと書いてね、ってことだけです。
4点目、取引の年月日。これは、フリーランスの方の場合、仕事を終えて納品して、検収してOKが出たらお仕事完了、ということになりますから、仕事が完了した日付を「取引年月日」として「請求書発行日」とするのが一般的ですね。5点目、請求書を出す相手の事業者の氏名または名称(相手が会社なら会社名、相手が屋号をもった個人事業主なら屋号、など)。この2つも、いままでも書いておられた方がほとんどだと思いますから、いままでと変わらないんです。それをちゃんと書けばOKです。
で、6点目が、「インボイス」を出す側の、つまりあなたの、「登録番号」なんですね。「登録番号」を書かなきゃいけないんです。インボイスを作って発行するっていうのは、要するに、これくらいのことなんです。簡単に作れちゃいそうなものではあります。
ただ、ですね、「登録番号って何?」ってなりますよね。そうなんです。この「登録番号」がないと、インボイスは作れないわけですね。 「登録番号」ってなんの登録番号?自分持ってたっけ?となりますよね。そうです、ここが味噌なんです。
では、ここからは、どんな人が、この「インボイスの登録番号」を取得して、インボイスの書式に沿った適格な請求書を発行しなければならないのか、っていうところを見ていきましょう。
■ 誰が発行するの?
▼ 「適格請求書発行事業者」について

こちら、一般的な「仕事の流れ」を図式化したものです。上にブルーの「買い手(仕事を頼む側)」がいて、下にレッドの「売り手(頼まれて仕事をする側)」がいます。「請求書」というのは、あたりまえですけれども、仕事が終わった後、下の、 「売り手(頼まれて仕事をした側)」が、代金の支払いを求めて、 「買い手(仕事を頼んだ側)」に対して発行・送付するわけですね。
ところで、フリーランスといっても、通常のケースであれば、下の「売り手(頼まれて仕事をする側)」の立場で、誰かから頼まれた仕事をするわけですが、場合によっては、仕事を誰かにお願いしたりすることもありえますよね。仕事の一部を、誰かに手伝ってもらったり、とか、ありますものね。つまり、フリーランスであっても、 「買い手(仕事を頼む側)」、つまり、請求書を受け取る側の立場になることもありうるわけです。ここはすごくポイントです。

というわけで、 「売り手(頼まれて仕事をする側)」が請求書を出す、ということですから、今後、インボイス制度が始まりましたらば、「適格請求書」を発行するのは「売り手(頼まれて仕事をする側)」、ということになるわけです。黄色い星印がついているところです。そして、インボイス制度が始まりましたらば、請求書を受け取った側が「適格請求書」を保存しなければならないということに加えて、請求書を発行する側も、自分が発行した「適格請求書」を、しかるべきルールのもとでしっかりと保存していかなくてはならない、ということなんです。そしてこれは、【義務】になるんですね。
「えっ、そうなの、義務なの?これ、みんな、やらなきゃいけないの?いままで「請求書」を作って出してきた人は、これからみんな、「適格請求書」を出して保存していかなければならないの?」と思われると思うのですが、そうではないんですね。「みんな」ではないんです。請求書を出す側の立場の人の中で、なおかつ、【適格請求書発行事業者】となった人だけが、やらなければならなくなる、ということなんです。
■ 「適格請求書発行事業者」になるには
「なるほど、じゃあ、それは誰なんだ、誰が【適格請求書発行事業者】なんですか?」と思われると思うのですが、それは、「【適格請求書発行事業者】になります」という申請書を出した人が【適格請求書発行事業者】になる、ということなんですね。なんだか、ニワトリタマゴみたいな話ですけれども。

要するに、 「【適格請求書発行事業者】になります」という申請書を出した人が【適格請求書発行事業者】になる、ということは、これ、【任意】ということなんです。この「申請」を出せば【適格請求書発行事業者】になりますし、「申請」を出さなければ【適格請求書発行事業者】にはなりません。これ重要です。
そして、ポイントは、「申請」を出したときに【適格請求書発行事業者】としての登録を受けることができるのは【消費税課税事業者】だけ、ということなんです。【適格請求書発行事業者】になるためには【消費税課税事業者】じゃないといけませんよ、ということなんです。

▼ 「消費税課税事業者」と「消費税免税事業者」について
「【消費税課税事業者】って何?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。【消費税課税事業者】というのは、生活者としてであれ事業者としてであれ、代金を払ってお買いものをするときに消費税を払っている人のことを指しているのではなくって、事業者として事業を通じて受け取った消費税の金額から納付すべき消費税の金額を計算して税務署に納税をしている事業者(しなければならない事業者)のことを【消費税課税事業者】というんです。そうした【消費税課税事業者】だけが【適格請求書発行事業者】になれますよ、ということなんです。なりたいかどうかは別として、ですが。
「あれ?今、自分はフリーランス(個人事業主)だけれども、毎年、所得税は確定申告して納付しているけれど、消費税は納付していない気がするなあ」という方もいらっしゃるかもしれません。そうなんです。すべてのフリーランス(個人事業主) が「消費税課税事業者」 であるわけではないんですね。「消費税課税事業者」というのも、ある条件を満たして、消費税の納税が必要となったーー消費税の納税義務の免除が適用されなくなるーー事業者が「届出」を出すことで、はじめて、 「消費税課税事業者」になるわけなんです。ということは、「消費税課税事業者」になる「届出」を出す必要がなくて「届出」を出していない方は、法律によって、消費税の納付義務が免除されている状態にあるわけです。つまり、「消費税免税事業者」である、というわけなんです。(一定規模の売上があって、「届出」を出す必要がある事業者は「届出」を出さなければなりませんよ!)

そうした「消費税免税事業者」である方でも、適格請求書発行事業者の登録申請を行うことは可能です。ただし、その場合、適格請求書発行事業者になるタイミングで、同時に、消費税課税事業者にもなります。「適格請求書発行事業者になります」という書類を一式出すだけで、自動的に、消費税課税事業者「にも」なります。「適格請求書発行事業者の登録申請書」のなかに、いままで免税事業者だった人向けに、「いままで免税事業者でしたが、これからは免除の適用を受けないことになります」「じぶんはこれから課税事業者です」ということを確認するチェック欄が設けられているんですね。そこにチェックをして「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出することで、自動的に、消費税課税事業者「にも」なる、という仕組みなんです。

■ 適格請求書等保存方式(=インボイス制度)とは
ここまで、インボイス(適格請求書)とはどんなものか、そして、どんな人が適格請求書を発行することになるのか、ということについて説明をしてきました。ざっくり言えば、インボイス(適格請求書)というのは今までの請求書に【請求書発行側の事業者番号】をつけたものですよ、インボイス(適格請求書)を出さなければならないのは【適格請求書発行事業者】になるための【登録申請】をした人だけですよ、そして、申請をして登録を受けられるのは【消費税課税事業者だけ】ですよということを説明してきました。そうです。そういうことなんです。
ここまでの説明ですと、「インボイス(適格請求書) を作るのはなんとかできそうだけど、インボイスを発行するのに消費税課税事業者にならなければならないのはしんどそうだな」というような印象を持たれるくらいかと思います。ですが、インボイス制度というのは、そのように、「請求書を発行する側」だけに影響がある制度ではないんですね。「請求書を受け取る側」にも影響がある制度なんです。
どういうことかと申しますと、「請求書を受け取る側」の事業者が納めるべき消費税の金額に影響が出る、ということなんです。のちほど詳しく解説をいたしますが、消費税をいくら納付すべきかということの計算においては、その金額を減らすために「控除」を行うことができるのですが、インボイス制度が始まりますと、その「控除」を行うためには、「適格請求書等(インボイス)を受け取って、それを保存しておく」ことが必要になる、というわけなんです。
要するに、ある事業者が誰かに仕事を依頼するとしますよね。その時に、仕事を依頼した相手からもらえる請求書が「インボイス(適格請求書)」でないと、仕事を依頼した側の事業者が納付しなければならない消費税の額が増えちゃう、という制度なんです。のちほど詳しく説明しますが、「インボイス制度と消費税の関係」というのは、ザックリいうと、そういうことなんです。
まとめです。
インボイス制度というのは、【請求書を受け取る側】の立場からすると、インボイスをもらえないと、自分が納付しなければならない消費税の額が増えちゃうよ、という制度なんですね。いっぽうで、【請求書を出す側】の立場からすると、もしも、インボイスを出せるような事業者になろうとする場合、いままで消費税課税事業者だった方であれば関係はないのですがーーーいままで消費税免税事業者だった方の場合、消費税を納付しなければならなくなる、という制度なわけです。要するに、(いままで「免税」となっていた範囲の消費税額部分について)【請求書を受け取る側】と【請求書を出す側】のどちらかが負担しなければならなくなる制度、ということなわけですね。

第2部: 消費税の仕組みを学ぼう
■ 「消費税」の仕組み(概略)
では、この流れで、消費税の制度の仕組み、つまり、消費税を納付すべき人はどんな人で、納付すべき額はどうやって計算するのか、ということを、解説していきたいと思います。このまま聞いていただけたら、とてもよく理解していただけると思います。インボイス制度が始まることで、どんな人がどんな影響を受けるのか?ということを正確に理解するためには、やはり、消費税の制度の仕組みそのものをしっかり理解していく必要があります。実際に、誰が、どういう場合に、どれくらいの金額の影響を受けるんだろう?ということの感覚を掴んでいただくために、シミュレーションも用意しています。のちほど紹介させていただきますね。
▼ 消費税額の計算方法
それではさっそく、「事業者として納めるべき消費税の額」の計算方法を解説していきます。例を見ていきましょう。フリーランスの方で、年間の売上が2,000万円あった方がいらっしゃったとします。そうしますと、その方は、その10%にあたる200万円を、追加で、消費税として、受け取っているわけです。で、いっぽうで、フリーランスの方は、事業に必要なものを、経費として購入しているわけです。たとえば画材であるですとか、制作用のソフトウェアですとか、そういうものを、経費として支出しているわけです。そこには、消費税がかかってくるわけです。たとえば、年間で500万円の経費を使っていらっしゃる方がいたとしましたら、すべて税率10%として計算しますと、50万円の消費税を支払っているわけです。こういう年間の収支でもって事業をされている方の場合ですと、売上と一緒に受け取った消費税分の200万円から、経費の支払と一緒に支払った消費税分の50万円を【控除】しまして、差し引き150万円を、消費税として納付しなければならない。そういう計算をするわけなんです。これが基本です。とてもシンプルです。

▼ 「消費税免税事業者」となる条件
「あれ・・・、自分、売上と一緒に消費税10%分も請求して支払を受けていたけど、消費税の納付、してないな・・・、大丈夫かな・・・」と心配になられた方もいらっしゃるかもしれません。消費税というのは、原則、すべての事業者(法人だけでなく個人事業主=フリーランスも含む)が納税の義務を負うわけですが、一定の条件を満たしている場合には、法律によって、納税義務が免除されているのです。ざっくり申しあげますと、フリーランスの皆さんにとっての「事業年度」、要するに1月から12月までの1年間ですね、その、1年間の売上が、1000万円以下の方は、消費税の納税義務が免除されますよ、という制度になっているんです。これは、法律によって(具体的には「消費税法 第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)」の規定において)そう定められているんですね。ですから、これは、法律によって「消費税免税事業者」として認められている、ということですので、納付しなくても大丈夫なのです。
参考|e-GOV法令検索|消費税法

▼ 「消費税課税事業者」となったら
ではいっぽうで、年間の売上が1000万円を超えてきた場合にどうなるかといいますと、これはもう、納税義務の免除がなくなりますから、消費税を納付しなければならなくなるわけです(そのため、まず、「消費税課税事業者」となる旨の届出を自主的に出さなければなりません)。皆さん年1回、年が明けると確定申告をしておられると思いますが、あれは「所得税」の確定申告なわけですね。「消費税課税事業者」となりますと、同じタイミングで、「消費税」の確定申告もしなければならなくなるわけです。消費税用の「確定申告書」というものがありまして、付表と一緒にあれこれ記入していきますと、納付すべき消費税の金額が計算できるわけですね(最近は、会計のシステムを使っておられる方も多いかもしれません)。書類をチラッと眺めただけでも、「ウワッ」となりますよね(笑)。先程の計算の仕組みが理解できている、ということと、必要な書類を正しく記入できるか、というのは、また別の話なんですよね。正直、消費税に関する税務作業というのは、とても大変なわけです。

▼ 「簡易課税制度」とは
ところがですね、これ、インボイス制度に関連するニュースなどでも触れられることが少ないのですが、消費税には、簡易課税制度というものがあるのですね。これは要するに、名前の通りですが、「消費税の額の計算について、簡単な(簡易な)方法で計算するのでOKとしますよ」という制度なんですね。1枚ペラの、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、 「簡易課税制度」を利用することができるようになります。この制度は、実は、インボイス制度にかなり関係してくる制度でして、重要なポイントです。

▼ 「簡易課税制度」の仕組み
それでは、「簡易課税制度」とはどういうものか、ということなんですが、納付すべき消費税額を、ざくっと「みなし」で計算できる制度なんですね。もうちょっと丁寧に説明します。本来は、先ほど説明したとおり、納付すべき消費税の額の計算というのは、売上に上乗せして受け取った消費税の金額から、経費の支出の際に上乗せして支払った消費税の金額をさっぴいて計算するわけです。そのためには、経費の支出の際に上乗せして支払った消費税の金額を積み上げて集計していかなければならないわけです。これは大変なことです。ですが、「簡易課税制度」を利用すれば、売上に上乗せして受け取った消費税の金額の、たとえばざっくり「50%」を「仕入(経費支出)に際して支払った消費税の金額とみなして」納付すべき消費税額を計算するのでOKだよ、ということになるんです。

例で考えたほうが分かりやすいですね。「みなし仕入率」は、以下の表のように、業種によって適用される率が変わります。たとえば、イラストレーターの方でしたらば、イラストレーションというプロフェッショナルなサービスを提供しておられるわけですから、「第5種事業」という分類にあたるわけです。その場合には、「みなし仕入率」として「50%」を使って、ざくっと計算するのでOKですよ、ということなわけです。

具体的には、年間の売上500万円に対して50万円の消費税が乗っかって受け取っていた方がいたとしますと、その50%、つまり半分の、25万円を、仕入(経費支出)に関連して支払った消費税の額であると「みなして」、差し引き25万円を納付してもらえればOKですよ、と、まあ、そういう制度なわけです。提出しなければならない「計算表」を見ますと「簡単じゃないな」と思われるかもしれませんが(笑)、考え方としては、このように、ごくごく簡単なものなんです。

参考|国税庁|簡易課税制度
▼ 税額のシミュレーション
ここまでしっかり消費税の額の計算方法について勉強してきましたので、ここから、実際の税額のシミュレーションを見ていきましょう。あくまでも、イメージをつかんでいただくことを目的として、ざっくりと、図解していきます。

たとえばこのようなケースを考えてみます。左からいきますが(スマホでご覧になっているかたは「左」を「上」と読み替えてください)、一番左にフリーランスであるイラストレーターのAさんがいます。イラストレーターのAさんがイラストを描いて、同じくフリーランスであるアートディレクターのBさんが本のかたちにデザインして、おなじくフリーランスとして(個人事業主として)出版事業を営んでいるCさんが版元として本を販売していきます。こんな流れを考えてみます。ものすごく単純化しています。実際には、出版事業をしているCさんは、本を印刷するための印刷代を印刷会社さんに払ったり、いろいろとあるわけですが、あくまでも例ですので、このひとつのお金の流れで、いちばん右の消費者さんのところまで本が流通していくとします。この流れにおける「消費税の取り扱い」が、インボイス制度が始まることで、どんなふうに変わっていくのかについて、いくつかのシミュレーションを見ていただきたいと思います。
まずはじめに、インボイス制度が始まっていない今現在(2023年4月現在)において、どのような流れとなっているかを確認しておきましょう。

今度は一番右から見ていきましょう(スマホでご覧になっているかたは「右」を「下」と読み替えてください)。一番右に、お店で商品を買う「消費者」と呼ばれる人がいますね。たくさんいます。私もそうです。みなさんそうですね。お金を払って商品を買います。その時は、「消費税」を支払うわけですね。たくさんの「消費者」がお買いものをします。積みあがって積みあがって、年間で2000万円の本が売れたとします。そうしますと、そこには200万円ぶんの消費税が乗っかって、あわせて年間で2200万円が、出版事業をしているCさんのところに入ってくるわけですね。いっぽうCさんは、本を作るまでの段階で、Bさんに制作業務委託費として500万円、そこに50万円の消費税を乗せて、あわせて550万円を支払っているわけです。
このときCさんは、年間の売上がすでに1,000万円を超えているような事業者さんですから、【消費税課税事業者】として消費税を納付しなければならないわけですが、売上と一緒に受け取った200万円の消費税から、経費と一緒に支払った50万円の消費税を差し引いて、差し引き150万円を1年ぶんの消費税として納付しなければならないわけです。これ要するに、Cさんは、年間の売上2,000万円に対して経費支払500万円ですから差し引き事業所得(=手残り)が1,500万円なわけですが、その10%に相当する150万円を納税しなければいけないわけです。受け取っている200万円から支払い済みの50万円ぶんを差し引いた150万円を納税するわけなので、手残りは変わらず1,500万円なのですけれどね。
ところでこのときBさんは、年間の売上が500万円で、まだ【消費税免税事業者】であるわけです。そしてまだインボイス制度も始まっていません。アートディレクターのBさんは、売上の500万円とあわせて50万円分の消費税を受け取っています。いっぽうBさんは、イラストレーターのAさんに、イラスト制作費として200万円を支払っていて、その時に20万円分の消費税を支払っています。この場合ですと、本来は、消費税分として受け取った50万円から消費税分として支払った20万円を差し引いた30万円を消費税として納付する必要があるところ、法律でもって免除されているわけですね。
つまりこの段階においては、Bさんは、年間550万円の受け取りに対して、年間220万円の支払いですから、差し引き事業所得(=手残り)330万円、となるわけです。
参考|国税庁|税抜経理方式又は税込経理方式による経理処理(※やや専門的な話になりますが、消費税免税事業者は「税込経理方式」を取ることとなっています。)
参考|国税庁|基準期間において免税事業者であった者の課税売上高の判定(※したがい消費税免税事業者は「課税資産の譲渡等の対価の額」、要するに商品やサービスを提供して受け取った対価の総額を課税売上高とすることとなっています。)
同様にイラストレーターのAさんも、200万円の売上についてきた消費税分の20万円を消費税として納付する必要があるかというと、現状では「ない」わけです。法律で免除されているわけです。年間の事業所得(=手残り)は220万円です。
ここまでが現在(2023年1月現在)どういうお金の流れになっているか、ということの解説でした。それでは、Aさん・Bさん・Cさんの状況が変わらずに、このまま「インボイス制度」が始まったとしたらどうなるか、というのを見てみましょう。どん。

一番右の、出版事業をしているCさんは、もう、売上が年間1000万円超えていて、消費税課税事業者ですから、「お客さまも一般の消費者の方たちだし、まあ、そんなに適格請求書を求められることもなさそうだけど、求められたら出せるように、適格請求書発行事業者に登録しておこうか」というふうに、登録をしたとします。これによって、Cさんが何か変わるかというと、それだけではーーCさん自身の選択によってはーー特に何も変わらないんですね。「適格請求書が出せる」というくらいですね。
しかし、ですね、隣のBさん、そのまた隣のAさんは、売上が年間1000万円超えていませんから、ずっと消費税免税事業者でしたから、消費税課税事業者になるのはしんどいな、ということで、適格請求書発行事業者に登録しないとします。もし求められないのだとするならば、正直、登録するメリットってなさそうですものね。そうしますと、BさんもAさんも、適格請求書を発行できませんから、いままでどおり、普通の「請求書」を出していくことになるわけです。そうするとどうなるか、ということなんですが、大変なのはCさんです。Cさんは、いままでは、売上とともに受け取った200万円の消費税から、経費支払とともに支払った50万円の消費税の金額を控除した150万円を消費税として納付すればよかったわけですが、インボイス制度が始まりますと、適格請求書ではない普通の請求書に基づいてBさんに支払った50万円の消費税分を、控除できなくなってしまうわけなんです。つまり、Cさんは、いままでより50万円多い、200万円を、消費税として納付しなければならなくなる、ということになるわけなんです。いっぽう、BさんAさんは、というと、なんにも変わりません。消費税の納付義務は免除されたままですから、なにもかわらない、ということなんですね。
とはいえ、こうなりますとCさんは大変ですから、Bさんに対して「適格請求書を出してくれませんか」と頼んだりすることになるわけです。もしくは、Bさんに対して、「適格請求書を出せないなら、これからは、消費税分の50万円は、もう払えません」というようなことを言わなければならなくなったりするわけです。そうなった場合に、Bさんが、(「そんなこと言われても、こちらも困ります」とCさんに言い返せなかったとして)「まるまる消費税分の50万円をもらえなくなるくらいだったら、消費税課税事業者になって消費税の納付義務が免除されなくなったとしても、適格請求書を出せるようにした方がいいかもな」というように思うようになったとします。そして、Bさんも、適格請求書発行事業者に登録することにしたとします。そのタイミングで、Bさんは、消費税課税事業者になります。こうなりますと、Cさんは、Bさんから適格請求書を受け取れるようになりましたから、いままでどおり、Bさんに支払っていた50万円の消費税分を控除できますから、いままでどおり、150万円を納付すればよい、ということになるわけです。

ところが。今度はBさんが大変です。Bさんは、いままで、売上とともに受け取っていた50万円の消費税分から、Aさんに支払っていた20万円の消費税分を差し引いた30万円の消費税相当額について、納税が免除されていたわけですが、これからは、納税しなければならなくなるわけです。しかもこの時、Aさんが、適格請求書登録事業者に登録しておらず、Aさんから適格請求書をもらえないとすると、Aさんに支払っていた20万円の消費税分を控除できませんから、間に挟まれているBさんは、なんといきなり50万円の消費税の納付が必要になるわけなんです。いままで30万円の消費税の納付義務を免除されていたBさんが、いきなり、50万円の消費税納付義務を負うことになるわけなんですね。年間事業所得330万円(※消費税免税事業者時点)の人が、いきなり50万円の追加の税負担を背負うことになるわけですね。考えるだけでもしんどい気分になってしまいますね。
それはたまらん、ということで、Bさんも、Aさんに対して、「お願いだから適格請求書出してちょうだい」と頼むことにしたとします。Aさんが、「わかりました」ということで、適格請求書発行事業者に登録したとします。そうしますと、Aさんは適格請求書を発行できるようになりますから、Bさんに適格請求書を渡します。そうすると、Bさんは、Aさんに支払う20万円分の消費税分を控除できるようになりますから、差し引き30万円を納付すればよい、ということになるわけです。「Cさんから消費税相当分の50万円をもらえなくなったかもしれなかったわけだから、所得税を30万円納付することになったけど、まあよかったか」と、Bさんは思うかもしれませんね。それでも、もともと免除されていた30万円分は、納付しなければならなくなったわけです。これはBさんの負担ですね。そして、ここまでくると、Aさんも、適格請求書発行事業者になることで消費税課税事業者になっていますから、いままで免除されていた20万円の消費税を納付しなければならなくなるわけです。消費税込みの年間売上高が220万円の方が、年20万円の税金を納付することになるわけですから、1か月分の収入よりも大きい額が消えていくことになるわけですね。これはしんどいかもしれませんね。いや、しんどいでしょう。

このように、インボイス制度というのは、ひとりひとりの選択が、周囲の取引相手にも影響を与えていく仕組みになっているんですね。要するに、いままで「免税」となっていた範囲の金額について、これからは、どこかで誰かが負担することになる、と。要するにそういう制度なわけです。

そうすると、皆さん、できるだけ、「自分の負担は増えないようにしたい」と思うのが自然ですから、取引関係の中で交渉が発生することになるわけですね。場合によっては、取引先から、「インボイスください」と、強い圧力をかけられたりすることも出てくるかもしれません。しかし、そもそも、取引関係において、力の強い側が一方的に「インボイス出してくれないんだったら、取引を打ち切りますよ」というようなことを言うことは、好ましくありませんよね。力の弱い側は、従うより他ないわけですからね。それでも、力の弱い側も死活問題ですから、必死で抵抗しますよね。そうすると、話し合うしかないわけなんですが、話し合いで決めるというのは、大変ですよね。お互い、現状の報酬額の妥当性について、改めて、仕事の内容や成果と照らし合わせながら、すりあわせをしなければならないわけですから。お互い、通常の、日々の仕事も山積みな中で、そうした話し合いにも時間を割かなければならない、となると、これはもう、それだけでも大変です。AさんもBさんもCさんも、みんな大変です。
みんな大変なわけですが、AさんBさんは、とりわけ不安でしょう。もし、これから、いままで免除されていた消費税の納付をしなければならなくなったら、所得のうちの大きな部分が失われるわけですから、生活に大きな影響が出ますよね。税負担増です。それだけじゃないですね。事務負担も増えるわけです。要するに、いろんな計算をして、いろんな書類を作って出さないといけないわけです。そして、そもそもどんな書類を出さなければならないのか、調べて勉強するところから始めなければならないわけです。それは無理だよ、となって、じゃあ税理士さんにお願いするか、となりますと、さらに、税理士さんにお願いするためのお金も必要になってくるわけです。自動的に計算してくれるような会計システムを利用するにしても、それはそれで、利用料かかりますからね。税金を納付するために、納付する税金の額と同じくらいの事務費用がかかってしまうとなると、実質の負担はすごい額でよね。これはもう・・・、本当に大変な制度です。

ところで、です。ここで重要な補足をさせていただきたいと思います。それは、先ほど紹介させて頂いた「簡易課税制度」に関してです。この「簡易課税制度」というのが、実は、インボイス制度とものすごく関係するんです。
仮に、いままで見てきたような流れで、AさんBさんCさん、みんな「適格請求書発行事業者」になったとしますね。そして、AさんBさんCさん、みんな「消費税課税事業者」になったとします。ですが、皆さん、年間の売上は5,000万円以下ですから、皆さん、「簡易課税制度」の利用を選択するとします。そうするとですね、実際どのように納付すべき消費税の額を計算するかというと、先ほど説明させて頂いたとおり、売上とともに受け取った消費税に、ざっくりと「みなし仕入率」をかけて計算することになるわけですね。出版業を営んでいるCさんは「第3種事業者」ですから、みなし仕入率は70%ですから、これ、70%控除した、残りの30%、つまり60万円が、納付すべき消費税の額になるわけですね。金額も減りましたし、計算も楽です。
AさんBさんはプロフェッショナルサービスを提供している職種ですから「第5種事業者」となって、みなし仕入率は50%です。50%控除した残りの50%、Bさんであれば25万円、Aさんであれば10万円が、納付すべき消費税の額になるわけですね。金額も減りましたし、計算も楽です。

これならだいぶ楽そうだな、ということなんですが、ポイントは、そこだけじゃないんですね。
簡易課税制度というのは、納付すべき消費税の額を、「みなし仕入率」を用いて、ザクっと、簡易に計算することが認められている制度なわけです。インボイス制度がはじまりますと、納付すべき消費税の額を計算する際、インボイス(適格請求書)を受け取れない取引に関する消費税相当額は控除できなくなるわけですけれども、もしも、「簡易課税制度の利用を選択している消費税課税事業者」であれば、そもそも、取引の中で支払ってきた消費税の額を積み上げて計算しなくても、ザクっと、「納付すべき消費税の額」を計算することが認められているわけですから、インボイス(適格請求書)を受け取れたとしても、受け取れなかったとしても、 「納付すべき消費税の額」には影響が出ないんですね。

となると、例えばCさんが「簡易課税制度の利用を選択している消費税課税事業者」であったとしますと、Bさんからインボイス(適格請求書)をもらう必要がないわけなんです。そうしますと、インボイス(適格請求書)を必要とするのは(受け取ることが望ましい、と考えるのは)、イメージで言うと、年売上が5,000万円を超えるような大きな事業者(フリーランスであれ法人であれ)、もっというと、簡易課税制度を利用していない事業者、ということになるわけです。
この、「課税事業者であっても簡易課税制度を選択している売上先は、インボイスが不要です」ということは、国税庁さんがウェブサイトで公開している資料にもきちんと書いてありますのでね。
参考|国税庁|免税事業者のみなさまへ|令和5年10月1日からインボイス制度がはじまります!(※「疑問4」への回答欄に、その旨の記述があります。)
さらにもう少しだけ補足をさせていただきますと、インボイス制度には「経過措置」というものがあるんですね。「インボイス制度が始まったら、普通の請求書しかもらえないと、こちらが納付すべき消費税の額が増えてしまうんで、インボイスを出してもらえませんか」と言われたとしますね。でもですね、実際には、「経過措置」というものがありますから、向こう6年間は、全額じゃないですけれども、インボイスではない普通の請求書だったとしても、そこに紐づく「支払った消費税の額」の一部を控除できるような制度になっているんですね。なので、いきなりガラッと変わるわけじゃないんですね。このあたりまで理解したうえで、取引先さんとコミュニケーションしていただくとよいかな、と思います。特に、とりあえず、開始から3年は、インボイスがなくても80%控除可能なわけですから、そのあたりも織り込んで、取引先さんとコミュニケーションしていただくとよいかな、と思います。よい機会なので、そのタイミングで、「本来妥当な報酬額」について、腹を割ってお話ができたらいいかもしれませんね!いままでお願いしにくかった「報酬額の引き上げ」についても、相談できる良い機会かもしれません。

参考|Wor-Q|特集第5号|「フリーランスの【報酬】を考える~働いたら「報われる」社会を目指して~」
第二部のまとめです。
今まで見てきたように、インボイス制度が始まることで、「誰の負担がどう上がるのか(上がらないのか)」というのは、本当に、状況によって、ケースバイケースなんですね。取引関係にあるそれぞれが、どのような事業状況にあるかによって変わるわけなんです。一概に「こう変わります」とは言えないものなんですね。
なので、とにかく重要なことは「コミュニケーション」なんですね。お互いがどういう状況なのか、ということを、ざっくばらんに話し合うことが大切です。「いやいや、話し合うなんていったって、仕事を出してくれるクライアントさんから言われたら、断れないよ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。ですが、もしも相手方が、あまりにも無理な、理不尽な、一方的な要求をしてきたとしたら、それはそれ自体が(「ハラスメント」と呼びうるような)問題ですので、しかるべき相談先にすぐに相談するようにしましょう。

孤独なフリーランスは、一対一の関係で話し合うとなると、しんどいものです。フリーランスで働いていると、ひとりで抱え込んでしまいがちですが、ぜひ、悩みは共有して、共に課題解決を進めていきましょう!
参考|連合|無料電話相談
参考|Wor-Q|弁護士相談サポート窓口
第3部: あなたはどうする? 考えよう
それでは最後に、「じゃあ、どうしていきましょうか」という話をしましょう。皆さんおひとりおひとりが考える際の材料としていただけたらと思います。
■ いつから(いつまでに)?

まずはじめに、インボイス制度、これ、いつから始まるんだ、ということなんですが、今年(令和5年=2023年)の10月1日なんですね。始まる、っていうのは何が始まるのか、ということなんですが、要するに、もし、それまでの間に申請をして、「適格請求書発行事業者」になったとしますと、今年(令和5年=2023年)の10月1日以降に発行する請求書は「適格請求書」、すなわち、番号を付けたインボイスとして出さないといけませんよ、ということなんです。これ、「適格請求書発行事業者」に登録した場合は、適格請求書を出すことが義務になりますから、これ、「しなければならない」ことになるわけですね。なおかつ、これも大事なことなんですが、もし、そのタイミングで消費税課税事業者になる場合には、もう、今年の10月1日から消費税課税事業者になりますから、今年の10・11・12月の売上にかかる消費税に関して、来年2024年の頭の確定申告で、さっそく確定申告しなければならない、ってことなんですね。「まあ、とりあえず、番号付けたインボイス作って出すだけならなんとかなるか・・・」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には、来年(2024年)の頭には、すぐに消費税の確定申告をしなければならなくなるわけです。これは大変です。システムや税理士さんの力を借りるにしても、それはそれで、準備しなければならないですから大変です。というように、結構、差し迫った話なんですね。
さらにですね、今年(令和5年=2023年)の10月1日までに適格請求書を出せるようになるためには、原則、今年(令和5年=2023年)の3月31日までに登録申請をしなきゃいけない、ということだったわけなんです。
■ 登録しなければならないの?
ところがですね、ちょうど昨年(令和4年=2022年)の年末に「令和5年度税制改正の大綱」というものの閣議決定が行われましてですね、「2023年4月以降に申請しても2023年10月1日から適格請求書発行事業者になれますよ」という発表がされたんです。なので、数か月ではありますが若干の検討の猶予ができたわけですね。ので、その、検討のための期間を使って、取引先さんとコミュニケーションをしながら、検討をしていっていただきたいんです。

取引先さんとコミュニケーションする中で、あくまでもご自身として「登録しよう」と思えたならば申請をしていただいたらよいですし、そうでなければ申請をしないでいいんです。これはもう、重要なので何度でも申しあげますが、あくまでも「任意」ですから、ご自身で決めていただいたらいいんです。

■ 登録するとどうなるの?
じゃあ、考えました、決めました、登録します!となった場合ですが、「登録したらどうなるの?」ということを見ていきましょう。やらなければならないことは先程説明させていただきましたが、それだけではないんですね。漢字ばかりの長い名前で物々しいのですが、登録を受けますとね、「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」で登録番号や氏名又は名称等の情報が公表されることになっているんですね。ご存じでしたか?このウェブサイトは、すでに動いているんですよ。
参考|国税庁|インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト
このウェブシステムはですね、あくまでも、「番号で検索して」、その番号が有効なものか、ですとか、その番号が、本当に、その取引相手のものなのか、ですとかを、確認するためのものなんですね。裏を返すと、名前で検索したりして、「この人、適格請求書発行事業者として登録しているのかな?」とかを調べるためのものではない、ということなんですね。番号で検索すると、「① 氏名又は名称 ② 登録番号 ③ 登録年月日、取消年月日、失効年月日 ④ 法人においては、本店又は主たる事務所の所在地 ⑤ 特定国外事業者以外の国外事業者においては、国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地 ⑥ 個人事業者の主たる屋号 ⑦ 個人事業者及び人格のない社団等の本店又は主たる事務所等の所在地」がわかるようなシステムになっています。
=====
(補足)このウェブシステムには「利用規約」もありまして、「当サイトから取得した個人情報(氏名、登録番号)に該当する部分について、本人の同意なく公表するなどした場合は、個人情報保護法の規定に抵触するおそれがありますのでご留意ください。」なんて書いてありますけれども、「じゃあ、公表さえしなければ、いろいろ調べてもOK、ということだとすると、知らない人に自分のことを調べられたりしてしまうリスクもあるのかな」とか心配になりますよね。
参考|国税庁|インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト|利用規約
Web-APIも公開されていますが、利用にあたっては申請と承認が必要ということですし、セキュリティも確保されているのでしょうが、とはいえ、「悪意のある人にデータを取得されて、自分のことを調べられたりしないかなあ・・・」と、心配される方もいらっしゃるかもしれません。
参考|国税庁|インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト|Web-API機能
今年に入ってから「スクレイピングなど、プログラムを用いて公開している情報を取得する行為の禁止」が利用規約に追記されたり、利用規約についても、より柔軟に規約の改正を行えるような改正が行われたり・・・と矢継ぎ早に対策が取られているようですが、それでも(だからこそ)心配だ、と思われる方もおられるかもしれません。
特に、個人事業主の方は、本名でお仕事をされていたり(逆に、芸名や屋号で仕事をしていて本名は出さずにお仕事をされていたり)、自宅を事務所にされていたりする方も多いでしょうから、心配される方も多いかもしれません。このあたりは、さらに安心できるような仕組みや説明が欲しいところです。なお、「屋号」「本店又は主たる事務所等の所在地」については、本人(適格請求書発行事業者)が希望しなければ公表されない、ということになっています。いっぽう、屋号は公表するかしないかを選択可能ですが、「氏名又は名称」は公表事項になっています。本名を公表せず、屋号で仕事をされている方は、このあたりも意識しておきましょう。
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以上、もしも登録を検討される場合には、このあたりについてもしっかりと意識して、手続きを進めていくようにしましょう。

■ 登録するにはどうしたらいいの?
そのあたりまで慎重に検討を進めたうえで、「よし、登録しよう」と思われた場合、どうしたら登録できるのか、という点を見ていきましょう。
これはですね、簡単でして、2枚組の「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出するだけなんです。e-Taxで提出することもできます。提出にあたって、過去の決算書類をまとめて添付しなきゃいけない、とか、そういうことはありませんから、登録申請自体は、まあ、簡単と言えば簡単なんです。

■ 登録したら何をしないといけなくなるの?
ですが、登録したらどうなるか、といいますと、これ何度も説明させていただいていますけれども、インボイスを発行したり、しかるべきルールに沿って保存したり、(いままで免税だった方は)これからは消費税の申告納付をしなければならなくなる、ということなんですね。大変なんです。
■ 登録したほうがいいの?
さて、皆さん、ここまで話を聞かれて、いかがでしょうか。どうお感じになられたでしょうか。ぶっちゃけ、どうでしょうか、登録したら、大変なこと増えますよね。ぶっちゃけ、登録しなくてもいいんだったら、登録しない方が、手間もかからないし、お金も余計に払わなくてよさそうだし、よさそうだな、と思いませんかね。自然に考えますと、そう考えるような気がしますよね。「どうしても登録しなければならない状況になったら登録しよう」と考えるのが自然な気がします。
いっぽうで、どうでしょうか、この制度は社会的な要請であって、ご自身の選択が取引先さんにも影響を与える場合がありますから、「フリーランス(個人事業主)としての社会的信用を得るために、大変だけどあえて申請しよう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。これはもう、本当に、皆さんおひとりおひとりの考え方次第なわけですね。

これ、くどいんですが、何度でも言いますが、登録は「任意」です。なので、ぜひ、皆さん、ご自身で、判断してください。ちなみに、「登録するかどうかを検討するにあたって、こういう観点から検討してみてくださいね」という「チェックシート」を国税庁さんが出してるんですね。これを見ますとですね、要するに、ご自身で、取引先さんとコミュニケーションして、検討して、判断してくださいね、ということなわけですね。義務じゃないんです。任意なんです。取引先さんが、課税事業者なのか免税事業者なのか。簡易課税制度を利用しているのか。経過措置もあるけれども、それでもインボイスを求めているのか。もろもろそういうことを検討しながら、決めていってくださいね、ということなわけです。
どうぞ、ご自身で、考えて、判断されてください。
とはいえ、さあ考えよう、となった時に、気になるのは、やっぱり「みんなどうしてるんだろう?」というところかもしれません。こちらは、昨年(2022年)の年末、11月25日の臨時国会の予算委員会において、鈴木大臣が、本年、つまり2022年の10月末時点で、法人、つまり会社の方は結構登録が進んでいて6割程度が登録をしている状況にあるけれども、個人、つまり個人事業主については2割程度の登録状況だ、と話をされてるんですね。なので、今後も、「的確かつ丁寧な周知」を行っていく、と話されているわけです。
ですので、現状は(2022年の10月末時点では)、まだまだ登録している人は少ないわけです。今後、「丁寧な」周知がある、ということですけれども、ぜひ、この制度の狙いであるですとか、働くひとたちに真に寄りそう丁寧な周知ーーー説明ーーーを、期待したいところですね。
Appendix(補足): 最新の状況(※2023年4月調査時点)
最後のパートです。インボイス制度に関する最新の状況がどうなっているか、ということについて、触れておきたいと思います。先程、「適格請求書発行事業者の登録申請期限(令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるための登録申請期限)が後ろにずれて、検討の猶予期間ができましたよ」というお話をさせていただきました。同じタイミングで、ほかにも、いくつかの「支援措置」が決定されたのです。昨年(2022年)の年末、12月23日に閣議決定されています。インボイス制度を始めるにあたり、心配だったり、悩んだりされている人が多いようだから、「支援措置」を用意しましたよ、ということですね。
「支援措置」というのは具体的になんなんだ、ということですけれども、6項目発表されています。メリットがあるな、と感じられる方もいれば、自分にはあんまりメリットないな、と感じられる方もおられるかもしれません。順番に見ていきましょう。
まず1番目に、いままで消費税免税事業者だった方で、インボイス制度、つまり適格請求書発行事業者に登録したことで消費税を納付する必要が出てきた場合には、納付すべき消費税の額を軽減しますよ、ということが掲げられています。「売上税額の2割でいいですよ」ということなんですね。売上が消費税相当分含めて年間220万円の方は、その、消費税相当分の20万円の2割、要するに年間4万円を消費税として納付してくれればいいんですよ、と、まあ、こういう軽減措置なわけですね。さて、どうお感じになるでしょうか。まず、「軽減」はあくまでも「軽減」ですから、ゼロになるわけではないんですよね。年間4万円です。小さい金額ではないですよね。人によっては年1回の帰省の交通費くらいの金額かもしれませんね。しかも、これ、あくまでも3年間の移行措置なわけです。なので、3年経ったら、軽減措置はなくなるわけですね。軽減措置が終わったら、簡易課税制度を利用してみなし仕入率5割の方でしたら、消費税分の20万円の5割、年間10万円を、消費税として納付しなければならなくなる、ということですね。月にならせば月8千円ですから、毎月の電気代・ガス代・水道代・電話代・・・どれかひとつの支出くらいの税負担を背負わなければならなくなるイメージでしょうか。

他の項目も見ていきましょう。2番目の支援措置。「小規模事業者持続化補助金」について、インボイス制度において適格請求書発行事業者に登録すれば、補助金の「上限額」が一律50万円加算されますよ、というもの。

・・・みなさん、 「小規模事業者持続化補助金」もらっておられますか? ・・・というより、「小規模事業者持続化補助金」ってご存じでしたか?厳しい経済環境の中で、「こういうふうに、事業を変えていこうと思うので、補助金をください」という申請書を書いて出しますと、審査がありまして、通ると補助金がもらえる仕組みになっているんですね。なので、「インボイス制度に対応するので、上限50万円の補助金をください、そのお金で税理士さんに相談します」という感じで、申請して、審査が通りますと、補助金がもらえる、というような仕組みなわけです。ですが、どうでしょうか、フリーランスの方で、こうした制度を活用しておられる方は少ないかもしれませんね。だとしますと、「補助金の「上限額」が一律50万円加算されますよ」と言われても、メリットには感じられないかもしれません。
参考|中小企業庁|「小規模事業者持続化補助金」が拡充されます!
参考|商工会議所|小規模事業者持続化補助金
参考|商工会|小規模事業者持続化補助金
参考|商工会|小規模事業者持続化補助金|記載例(カラオケ店)
3番目の支援措置。これ、先ほどご説明したものです。登録申請は4月以降でも間に合いますよ、と。・・・いままでの締め切りはなんだったんだ、と思わないこともないですが、いずれにしても、締め切りが後ろ倒しになりました。とはいえこれは、あくまでも、「令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるための申請期限」ということですから、それまでに申請しないと、もう今後永遠に適格請求書発行事業者になれませんよ、というものではありません。焦らず、慎重に、ご自身で検討して判断していってください。

4番目の支援措置。「IT導入補助金」について「安価な会計ソフト」の利用についても対象とできるように「下限額を撤廃しますよ」というもの。インボイス制度開始とともに、消費税の複雑な経理もやらなくてはならなくなるので、会計ソフトを利用することにします、と。そうしたケースにおいて、会計ソフトの費用に対して補助金が受けられるように(下限額を撤廃)しますよ、ということなんですね。最近は、クラウド型の、Web上で利用できる会計ソフトサービスが人気ですが、そうしたクラウド利用費について、最大2年分。50万円までの費用については最大3/4を補助しますよ、ということなんですね。最大2年です。

しかしどうでしょうか、「IT導入補助金」。これ、利用されている方どれくらいいらっしゃるでしょうか。そもそも「IT導入補助金」の存在をご存じの方、どれくらいいらっしゃるでしょうか。これ、どういう制度か自分で調べて、申請のために必要な書類などを用意して、となりますと、たとえば5万円の補助金を受けるために、丸半月くらい作業が必要だったりするわけですね。となりますと、だったらその時間、仕事としてたほうが稼ぎになったな・・・となるかもしれませんね。じゃあ、申請について専門家に頼むか、としますと、それはそれで、専門家に頼むためのお金が必要になるわけです。ウェブサイトでも注意喚起されていますが、「IT導入支援事業者を装った悪質な事業者」というのもいるわけですね。
参考|IT導入補助金|トップページ(※運用:一般社団法人サービスデザイン推進協議会|監督:中小機構・中小企業庁)
なので、どうでしょうか。この支援措置、メリットだな、助けになるな、と感じる方、どれくらいおられるでしょうか。
5番目の支援措置。少額取引はインボイス不要。1万円未満の課税仕入れ(経費等)については、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるようになる、というものです。これはまあ、なかなか助かりそうなものですが、実際のところ、簡易課税制度を利用するのであれば、どの道、みなし仕入率で計算することになりますから、あんまり関係なさそうですね。ただ、大企業さんが、小さいお店で経費を払うときに、小さいお店からインボイスをもらわなくても仕入税額控除ができますよ、という点では、小さいお店を営んでいる人からすると、メリットがあるかもしれません。ですが、いずれにしましても、この支援措置も、令和11年までの期間限定、ということになっています。

6番目の支援措置。少額な値引きや返品においては返還インボイスの交付は不要。うーん、レアケースですね・・。ここまでくると、もう、その意味、対象範囲を正確に把握しようとするだけでもしんどくなってきます。どのみち、大きな「支援」にはならないように感じる方も多そうですが、どうでしょうか。

以上、6項目の支援措置でした。昨年末(2022年末)に閣議決定されています。これが最新の状況です。皆さんどのようにお感じになられるでしょうか。
さあ、総まとめです。皆さんご自身で考えて頂くにあたって、考える際のきっかけとなるような、問いかけを発しておきたいと思います。インボイス制度(適格請求書発行事業者)に登録をされますと、いままで消費税免税事業者だったような売上規模の方でも、消費税の納付が必要になります。3年間の軽減措置適用期間においてであっても、年間の売上240万円(+消費税24万円)の、おそらくや生活面ではかなりギリギリの小規模な個人事業主(フリーランス)の方の場合で、「年4.8万円」の消費税の納付が必要になります。軽減措置終了後は、簡易課税制度(みなし仕入率5割適用時)で年12万円の消費税の納付が必要になります。インフレで生活に必要な物やサービスを購入するための支出がどんどん増えていく一方で、雇用労働者のように「定期昇給」「賃上げ」があるわけではないなかで、消費税の納付が必要になると、生活が非常に厳しくなるというフリーランスの方も多いのではないでしょうか。廃業を検討している方もおられるかもしれません。

いずれにしましても、消費税(消費税+地方消費税)は社会保障を使途とする旨定められた税金(国税・地方税)です(※消費税率1%分の地方消費税収を除く)。どうでしょうか、皆さん、消費税を通じて、政府や地方自治体から適切な保護(保障・支援)を受けられていると感じられていますか。皆さんが、でなくても、保障が必要な方に、必要な保障がしっかりと行き届いているとお感じになりますか。お考え、いろいろだと思います。
参考|財務省|消費税の使途に関する資料

税制は、社会のかたちそのものといっても過言ではありません。したがって、消費税制と密接に関連している「インボイス制度」は、皆さんおひとりおひとりの生活に直結するものであるとともに、社会保障(すなわち「安心」)をどのようにして形作っていくべきなのか、に深く関係する非常に大きなテーマなのです。「請求書の書式がちょっと変わりますよ~」という程度のテーマではないんですね。

それくらい広がりをもったテーマですから、ひとりで悩んで考えていても、なかなか答えを出しにくい問題でもありますし、本当の課題解決にはつながっていかないかもしれません。令和5年(2023年) 10月1日まで、まだ時間があります。ぜひ、フリーランスの皆さん、横でディスカッションしながら、「どうしていったらいいんだろう?」ということを、考えて、声に出して、世に広げていきませんか。インボイス制度は、令和5年(2023年)10月1日に開始した後も、いや、開始した後こそ、大変なことがいろいろと起きると思います。長く議論が続くテーマになりそうです。Wor-Qでは、引き続き、インボイス制度について、継続的に、フリーランスの皆さんとのフラットなディスカッションを通じて、情報共有、そして、課題提起と課題解決を進めていけたらと考えています。ご注目ください。そして、声をお寄せください!
参考|Wor-Q|Opinion Box 24h365days(※「困りごと」の欄に、インボイス制度についての皆さんのご意見をお書きの上、声をお寄せください!)

注
本特集に掲載しております情報は、正確を期すべく、しっかりと確認を行っておりますが、あくまでも参考としてご利用いただきますようお願いをいたします。また、状況は常に動いておりますので、最新の情報は、必ず、ご自身で、国税庁ウェブサイト他でご確認いただきますようお願い致します。
構成:旦悠輔(Wor-Q管理人 兼 Wor-Q Magazine編集長)
大学卒業後16年間に渡り大手コンサルティング会社・大手ポータル企業等でIT関係の仕事に従事したのち、フリーランスとして独立。Webサイト運営に関するコンサルティングから、システム設計・開発・運用、コーディング・デザイン、そして中身のコンテンツの企画制作(文章/イラストレーション&グラフィック/写真&映像)に至るまでオールマイティにこなすマルチフリーランサー。個人事業主としての屋号も、「肩書や職種の枠組にこだわらず、課題解決やイノベーションのために必要なことはなんでもやる」という決意をこめて「旦悠輔事務所」としている。当事者(フリーランス)のひとりとして、「フリーランスという働きかた」に関するさまざまな課題を解決に向かわせていきたいという思いをもって、Wor-Qの運営に携わっている。
公開中特集一覧
•特集第14号「フリーランスのためのITツール徹底活用ガイド【後編】~IT系フリーランスじゃないあなたも必見~」(2022年12月2日公開)
•特集第13号「フリーランスのためのITツール徹底活用ガイド【前編】~IT系フリーランスじゃないあなたも必見~」(2022年10月31日公開)
•特集第12号「フリーランスのための【メンタルヘルスチェック&メンタルケア徹底ガイド】~不安と孤独感に負けないで~」(2022年8月29日公開)
•特集第11号「ハラスメントに絶対負けないフリーランスになる ――すべての働くひとが対等に尊重される社会を目指して――」(2022年4月29日公開)
•特集第10号「フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」(2022年3月4日公開)
•特集第9号「50年後も生き残る!フリーランスのためのスキルアップ&キャリアアップ戦略ガイド」(2021年11月9日公開)
•特集第8号「決定版!フリーランスのための【契約書の結びかた】徹底ガイド」(2021年10月11日公開)
•特集第7号「フリーランスが労災に備えるには -共済・保険について考える-」(2021年9月9日公開)
•特集第6号「フリーランスの出産・育児、そして介護を考える」(2021年6月30日公開)
•特集第5号「フリーランスの【報酬】を考える~働いたら「報われる」社会を目指して~」(2021年5月31日公開)
•特集第4号「フリーランス1年目をどう生きるか」(2021年4月30日公開)
•特集第3号「徹底解説!「損害賠償」をしっかり理解して<強いフリーランス>を目指そう」(2021年3月31日公開)
•特集第2号「フリーランスとして生き延びていくための「消費税/インボイス制度」徹底解説」(2021年2月28日公開)
•特集第1号「コロナ禍で苦しむフリーランスの方々のための「2021年/令和2年分確定申告」お役立ち情報」(2020年12月28日公開)


新・特集シリーズ第3号<最終回> 未来を切り拓く! ~森川ジョージ先生に聞く「フリーランスに必要な対話力」とは~
2024年12月4日

新・特集シリーズ第2号<後編> 「声優の働きかた、その<あるべき未来>を描きだそう」 「文化を守りたい」ーーーフリーランスとして働く声優が声をあげ続ける理由
2024年9月11日

新・特集シリーズ第2号<前編> 「声優の働きかた、その<あるべき未来>を描きだそう」突き詰めると、この国の<余裕のなさ>に行き着く ーーーなぜ声優の収入レベルは上がらないのか
2024年8月19日

新・特集シリーズ第1号<後編> 「働くひとにとっても、生活者・地域にとっても、事業者にとっても喜ばしい」、<三方よし>の<フリーランスの軽貨物自動車運送事業者の働きかた>とは
2024年6月6日

新・特集シリーズ第1号<前編> 「人間らしく働きたい」 ―Amazonドライバー(フリーランスの軽貨物自動車運送事業者)の声
2024年5月20日

新・特集シリーズ第0号「フリミラ! ーー創ろう、フリーランスの未来ーー」。
2024年3月26日

特集第17号「フリーランスの地方移住について考える」
2023年10月4日
![[特別編]シリーズ「インボイス制度について語ろう」、スタート!](https://wor-q-public.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/cms/upload/2024/7/1675ef74-7290-44c7-8677-466ef9a04cd5.jpeg)
[特別編]シリーズ「インボイス制度について語ろう」、スタート!

特集第16号「2023年版:いまフリーランスが活用するべきDXツールはこれだ!」
2023年7月4日
特集第15号「フリーランスのための【インボイス制度】対応検討マニュアル」(2023年4月17日)
2023年4月16日

特集第14号「フリーランスのためのITツール徹底活用ガイド【後編】~IT系フリーランスじゃないあなたも必見~」(2022年12月2日公開)
2022年12月1日

特集第13号「フリーランスのためのITツール徹底活用ガイド【前編】~IT系フリーランスじゃないあなたも必見~」
2022年10月30日
特集第12号「フリーランスのための【メンタルヘルスチェック&メンタルケア徹底ガイド】~不安と孤独感に負けないで~」
2022年8月28日
特集第11号「ハラスメントに絶対負けないフリーランスになる ――すべての働くひとが対等に尊重される社会を目指して――」
2022年4月28日
特集第10号「フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」
2022年3月3日
特集第9号「50年後も生き残る!フリーランスのためのスキルアップ&キャリアアップ戦略ガイド」
2021年11月8日
特集第8号「決定版!フリーランスのための【契約書の結びかた】徹底ガイド」
2021年10月10日
特集第7号「フリーランスが労災に備えるには -共済・保険について考える-」
2021年9月8日
特集第6号「フリーランスの出産・育児、そして介護を考える」
2021年6月29日
特集第5号「フリーランスの【報酬】を考える~働いたら「報われる」社会を目指して~」
2021年5月30日
特集第4号「フリーランス1年目をどう生きるか」
2021年4月29日
特集第3号「徹底解説!「損害賠償」をしっかり理解して<強いフリーランス>を目指そう」
2021年3月30日
特集第2号「フリーランスとして生き延びていくための「消費税/インボイス制度」徹底解説」
2021年2月27日
特集第1号「コロナ禍で苦しむフリーランスの方々のための「2021年/令和2年分確定申告」お役立ち情報」
2020年12月27日