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働くみんなの連合サポートQ

特集公開日:2022年3月4日 by Wor-Q MAGAZINE 編集部

Wor-Q MAGAZINE、記念すべき特集第10号のテーマは、「フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」です。

経理、そして、確定申告。そんな言葉を聞くだけで「うわっ、苦手!」「かんべんしてー!」なんて思う方も多いかもしれませんね。経理や確定申告の作業は、慣れるまでが大変です。勉強しなければいけないこともたくさんです。「どうせ自分には分からないから」と諦めていらっしゃる方も多いかもしれません。もちろん、経理や確定申告の作業については、専門家や専門的なサービスを頼ることも可能ですが、せめて基本的な構造だけはしっかりと理解しておきたい、と思いませんか?経理や確定申告の基本的な構造だけでもしっかり理解できていれば、「どうすれば、自分が選んだフリーランスとしての人生を、経済的に持続可能なものにしていくことができるのか」がハッキリとわかるようになります。専門的な細かい話はいったん脇に置いて、経理や確定申告作業全体の基本的構造を丸ごと理解できるように整理した記事が、この、Wor-Q MAGAZINE特集第10号「フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」です。

これまで、Wor-Q MAGAZINEでは、「どうすれば、フリーランスとしての仕事能力を高めていくことができるのか?」に焦点をあてて、さまざまな特集をお届けしてきました。「フリーランスとしての中長期の人生計画を立てるための特集」として、第4号「フリーランス1年目をどう生きるか」・第9号「50年後も生き残る!フリーランスのためのスキルアップ&キャリアアップ戦略ガイド」、それから、「フリーランスとして取引先と対等に渡り合っていく力を身につけるための特集」として、第8号「決定版!フリーランスのための【契約書の結びかた】徹底ガイド」・第5号「フリーランスの【報酬】を考える~働いたら「報われる」社会を目指して~」。そして、「もしものときでも絶対負けない力を身につけるための特集」として、第3号「徹底解説!「損害賠償」をしっかり理解して<強いフリーランス>を目指そう」・第7号「フリーランスが労災に備えるには -共済・保険について考える-」をお届けしてきました。これらの特集を読んでいただければ、「フリーランスとしての仕事能力を高めて、稼ぐ」ことについての基本的な知識はばっちり身につけることができるはずです。

ですが、たとえどれだけフリーランスとしての仕事能力が高くても、それだけでは、フリーランスとして生き延びていくことは難しいものです。フリーランスは、自分自身の個人事業の経営者です。フリーランスとして生き延びていくためには、「経営」の知識が不可欠です。経営、なんていっても、難しいことではありません。お金をしっかり管理する能力を身につければ、経営はできるのです。どれだけ能力が高くて、高い報酬の仕事をたくさんこなせる方であったとしても、お金の管理がしっかりできないようでは、やがて個人事業の経営が立ち行かなくなってしまうことでしょう。逆に言えば、フリーランスなりたてで、自分自身の仕事能力を磨いている最中で、少ない報酬の仕事しか得られないような状況にある方でも、お金の管理ができる能力さえしっかり身につけておけば、「フリーランスとしての人生」を続けていくことができるのです。そして、堅実に続けてさえいけば、経験を通じて必ず仕事能力が蓄えられていきますから、個人事業の経営は必ず上向いていくものなのです。

本特集は、フリーランスとして働くみなさんが「自分自身で」個人事業に関するお金を管理していくために必要なスキルの全体像を整理したものです。ぜひ、本特集を読みがら、自分自身で個人事業の経営のハンドルを握ることにチャレンジしてみてくださいね。そして、読んで、「いいね!」と思っていただけたようでしたら、どうぞ、必要とされている方に、ページのURLをシェアしてくださいね。

特集コンテンツをフル活用して頂くために

「Wor-Q MAGAZINE」の特集記事の中には、「働く」に関する難しい専門用語を学びながら読み進めていくことができるよう、「Wor-Q用語集」へのハイパーリンクを丁寧に設定しています。また、具体的な事例を参照しながら、より具体的・実際的に各テーマに対する理解を深めていくことができるよう、「Wor-Q相談事例集」へのハイパーリンクもところどころに丁寧に設定しています。「Wor-Q MAGAZINE」は、どなたでも全文無料でお読みいただくことができますが、Wor-Qで「連合ネットワーク会員」に登録いただくことで、すべての「Wor-Q用語集」「Wor-Q相談事例集」を参照しながら、より便利に&より深く、「Wor-Q MAGAZINE」をお読みいただくことができるようになります。「連合ネットワーク会員」への登録はカンタン、そして無料です!まだ登録がお済みでない方は、まず、ぜひ、ご登録をご検討ください!

目次

「フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」

はじめに: 「会計の基礎」編

  ●どこまでをじぶんでやるか
  ●白色申告でやるか、青色申告でやるか
  ●複式簿記の基礎

理論編(「考え方」編): まずは、事業構造の全体像を理解しよう

▼1:財産の状況を正確に把握しよう
  ●あなたの事業の「財産」――「資産」とは
  ●「マイナスの財産」――「負債」とは
  ●資産から負債を差し引いた残りが「純資産」
▼2:財産の変化を正確に捉えよう
  ●資産の増加、負債の減少につながる動き ―― 「収益」を認識する
  ●資産の減少、負債の増加につながる動き ―― 「費用」を認識する
▼3:まとめ:「財産の状況」と「財産の変化」の「ふたつの側面」で事業の全体像を把握する

実践編1: 経理の流れの全体像を理解しよう

▼1:財産の状況を管理しよう
  ●いちばん大事なのは現預金の管理
  ●貴重な財産である固定資産をしっかり管理する
  ●現預金の管理と固定資産の管理は比較的簡単
  ●証憑の保存だけはしっかりと ―― フリーランスにとっての「改正電子帳簿保存法」
  ●それ以外の資産の管理は、日々の事業の記録とともに管理する
▼2:財産の変化を管理しよう
  ●収益(売上)に関する流れをしっかり記録する
  ●費用に関する流れをしっかり記録する
  ●現預金、固定資産以外の財産の状況は、収益と費用の流れをしっかり記録することで結果的に管理できる

実践編2: 決算と確定申告の流れの全体像を理解しよう

  ●はじめに:シンプルに考えましょう
  ●仕訳帳の記入方法
  ●総勘定元帳の記入方法
  ●残高試算表の作成方法
  ●損益計算書と貸借対照表の作成方法
  ●いざ、確定申告書の作成と提出へ

おわりに:基礎を学ぶことが安心につながります

 「フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」

  はじめに: 「会計の基礎」編

 ● どこまでをじぶんでやるか

「個人事業のお金の管理」。複雑そうですが、実は、やるべきことは、ごく限られています。「①日々の仕事とお金の動きをしっかり記録する」「②1年分の成果を集計する」「③集計した結果を(税務署等に)提出する」だけ、です。

ポイントは、この①②③の流れ(記録→集計→提出)について、「どこまでをじぶんでやることにするか」、です。全部自分でやることも可能ですし、一部について外部の専門家やサービスの助けを借りながら進めることも可能です(もちろん、全部を任せることも可能です)。詳しくは、Wor-Qお役立ちリンク集(確定申告編)をご覧ください。本特集は、読者の皆さまご自身に「経理や確定申告作業全体の基本的構造」を理解していただくことを狙いとしていますから、フリーランスなりたての方(かつ、会計の基礎的な知識のない方)を対象に、「①自分でExcel等を使って帳簿をつけて」「②自分で決算書を作成して」「③作成した決算書データを、自分で国税庁の確定申告書等作成コーナーに入力してe-Taxでオンライン送信する」流れの全体像を解説します。そう、やろうと思えば、全部じぶんひとりでもできることなのです。

もちろん、会計ソフトは非常に便利なものです。会計ソフトを利用すれば、面倒な処理は自動的に行ってくれますし、迷いがちな処理もしっかりサポートをしてくれますから、非常に効率的です。税理士さんも、頼れる存在です。税理士さんは、当然、経理や税務のプロフェッショナルですから、専門的な処理も安心して任せることができます。税理士事務所のなかには、専門的な内容の相談に乗ってくれるだけでなく、手間のかかる経理事務も丸ごと代行してくれるようなところもあるので、経理や税務がとにかく苦手だ、という方にとっては、心強い存在となるでしょう。

ただし、こうしたサービスを利用するには、当然、利用料が必要となるわけです。人によって「高い」と感じるか「安い」と感じるかはそれぞれでしょうが、毎年数万円、場合によっては十数万円~数十万円の費用がかかることになりますから、「頼りたくても頼れない」という方もいらっしゃることと思います。

そして、そもそも、
・特定の取引先から、一定の金額の報酬を安定して受け取っているだけ
・個人事業に関連した経費がほとんどかかっていない
というような方であれば、そもそもそこまで複雑・煩雑な経理作業が必要となりませんから、「自分ですべての経理作業を行い、確定申告書の提出まで終わらせたい」と思われる方も多いのではないでしょうか。

じぶんで経理や確定申告の作業をこなすのであれば、当然、経理・税務に関して、余計な出費はかからないことになります。そして、じぶんで経理をするようになると、「経理の手間が増えるから、余計なこと(複雑なこと)はしないようにしよう」と意識するようになり、結果的に経費の節約につなげることもできます。(そう、経理や確定申告を楽にする秘訣は、「①事業のかたちを複雑にしないこと」「②余計な経費を使わないこと」に尽きます。)

ですので、できれば最初は、自分自身で勉強しながら経理作業と税務作業にチャレンジすることをおすすめします。わからないことがあれば、税務署に問い合わせることもできますし、フリーランス同士でノウハウを共有しあうこともできます。あなた自身が経理・税務に関する基本的な理解をしっかりと確立させておくことで、いずれ、会計ソフトを使ったり税理士さんのサービスを受けることになった時にも的確な利用ができるようになりますから、決して無駄な知識にはなりません。そして、「どういう行動をしたら、経営の数字にどういう影響が出るのか」が理解できるようになれば、事業のかたちを、「経営的に無駄のないもの(無理なく、しっかりと利益を生み出せる形)」にしていくことができます。

フリーランスとしての事業が軌道に乗ってきて、安定した所得を生み出せるようになってきたならば(さまざまなビジネスをさまざまなお客様との間で展開できるようになり、事業を運営するための投資や費用支出も相当な額が出るようになってきたならば)、どんどん、専門的なサービスを利用していくとよいでしょう。その頃には、お金を払ってでも経理や税務を外に任せることで時間を節約し、浮いた時間で自分のビジネスにより多くの時間を割くことで、トータルで見て収支面をプラスにすることができるような状況を作れていることでしょう。こうした、経理や税務を外に任せるためのコストは、事業に関連する経費として計上することもできるわけです。

 ● 白色申告でやるか、青色申告でやるか

確定申告には、白色申告と呼ばれる方法と、青色申告と呼ばれる方法があります。

おすすめはもちろん「青色申告」です。最大で65万円の所得控除を受けることができますので、税務上のメリットが大きいからです。

「青色申告」を行うためには、まず最初に税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。

そのうえで、「正規の簿記の原則」に沿って、きちんとした帳簿を整備して記帳をしていき、総まとめとして、きちんとした決算書を作成することが求められます。「正規の簿記の原則」とは、きちんとした決算書、すなわち「損益計算書」と「貸借対照表」が導き出せる組織的な簿記の方式によって、きちんと記帳していくことをいいます。一般的には複式簿記と呼ばれる方法のことを指します。「損益計算書」とは、1年を通じて、個人事業がどれだけの儲け(もしくは損)を出したのかを計算するための書類です。「貸借対照表」とは、1年の終わりに、個人事業に関する財産の状況がどのようなものになっているのかを明らかにするための書類です。重要なことは、経営の状況を正しく認識するためには、「ふたつの側面」を明らかにしなければならない、ということです。たとえ事業としては収支がプラスで儲かっていたとしても、財産の状況としてはマイナスで、借金のほうが多く、このままではやがて支払うべきをお金を支払うことが困難になってしまう、というような状況もありえます。逆に、ある期間において事業が不調で収支がマイナスだったとしても、充実した財産が築かれていて、当面は「なんとかなる」というような状況もありえます。このような、「ふたつの側面」を明らかにするための経理の方法が「複式簿記」なのです。

そして、「①抜け漏れがないように、事業のあらゆる側面をしっかりと」「②きちんとした裏付けとなる証拠に基づいて」「③ルールを恣意的に変えることなく」、複式簿記の方式によって取引を記録していくことが、「正規の簿記の原則」と呼ばれるルールなのです。要するに、「いい加減にやらずにきっちりと」というだけのことです。恐れることはありません。

このように、きちんとした決算書(=「損益計算書」と「貸借対照表」)を作成すること、そして、その前提となるきちんとした帳簿(=「複式簿記」の考え方に沿って厳密に作成された帳簿)を作成するには勉強も必要ですし、事務の負担も大きいものとなりますが、正規の簿記の原則にしたがって記帳して決算を行うことによってはじめて、個人事業の経営がうまくいっているのかいないのかについて、正しく認識できるようになるのです。その認識があやふやなようでは、どのみち、安心して仕事を続けられないですよね。いずれ、会計ソフトや税理士さんのサービスを利用することも想定するならばなおさら、はじめから青色申告にチャレンジしていくべきです。

本特集では、これから、「青色申告」を前提として(つまり、正規の簿記の原則に沿って記帳していくことを想定して、「①自分でExcel等を使って帳簿をつけて」「②決算書を作成して」「③作成した決算書データを国税庁の確定申告書等作成コーナーに入力してe-Taxでオンライン送信する」流れの全体像を解説していきます。

(なお、本特集においては、全体の構造を理解できるようになっていただくことを最重視し、専門的な用語の使用は極力控えるとともに、細かな点や、「例外」についての記述も極力省いております。実際に経理、税務に関する作業を進めるにあたっては、ひとつひとつの作業について、しっかりと調べながら(必要に応じて専門家に相談しながら)進めるようにしてください。一番のおすすめは、フリーランスとして独立する前に、最低でも日商簿記3級を取得しておくことです。日商簿記3級レベルの知識があれば、自分自身で帳簿の作成と決算書の作成ができるようになります。簿記の仕組みが理解できれば、経営の基本が理解できたことになります。がんばって集中して1年間勉強すれば取得を目指せるものですし、一生の財産になる資格です。資格取得に要したコストは、その後、自分の事業の経理・税務をできる限り自分でこなしていくことで、回収することができます。ぜひ、取得に挑戦してみてください。)

 ● 複式簿記の基礎

ここでは、複式簿記の基礎を解説します。複式簿記とは、「複式」とあるように、ひとつの「取引」(簿記の世界では、事業上の財産に影響を及ぼすあらゆる出来事を「取引」と呼びます)を、ふたつの側面に分解してとらえて、ふたつの側面を同時に記録していく方式です。「ふたつの側面」とは、「何を原因として」「何が結果として起きたのか」のふたつの側面を指します。このふたつの側面を同時に記録していくことで、「この取引は、収支(損益)にどのような影響を及ぼすのか?」という側面と、「この取引は、財産にどのような影響を及ぼすのか?」という側面を漏れなく捉えることができるようになるのです。

たとえば、仕事をして、その結果、その場で現金で報酬を受け取ったとします。この取引は、「売上が立った(収支がプラスの方向に変化した)」という側面と、それによって「現金という資産が増加した」というふたつの側面を持つわけです。これを、単純に、「現金という資産が増えた」という「お金の動き」だけを(そう、お小遣い帳や家計簿のように!)記録するだけでは、「なぜ、この現金が増えたのか?」が後々わからなくなってしまうわけです。そこで、「(仕事の結果として)売上が立ったことで、現金が増えたのだ」ということもあわせて記録する必要が出るわけです。おおまかにいえば、そういうことです。

「個人事業の経営をする」ということは、大きくは、「自分の個人事業は、トータルでみて、収支(プラスマイナス)いくらで、結果的に、自分の個人事業にかかわる財産を増やすことにつながっているのか、減らすことにつながってしまっているのか?」ということと、「いま、自分の個人事業にかかわる財産の状況はどうなっているのか?」ということの「ふたつの側面」を正しく認識できるようにしておく、ということに尽きます。それを可能にするのが「複式簿記」なのです。

  理論編(「考え方」編): まずは、事業構造の全体像を理解しよう

それでは、複式簿記の考え方に沿って個人事業の経営を管理していくにあたって、まず、その「管理すべき、事業構造の全体像」を、図解で整理しておきましょう。具体的な管理手順(経理、確定申告の手順)を学ぶのは、その後です。

 ▼1: 財産の状況を正確に把握しよう

まず、真ん中に「財産」を置いて考えてみましょう。事業経営の目的は、「事業を継続可能なものにしていくために、プラスの財産を維持していくこと」であるといえるでしょう。「財産」を真ん中に置いて考えることで、事業の構造の全体像を見渡すことができます。

 ● あなたの事業の「財産」――「資産」とは

会計の世界では、プラスの財産のことを「資産」といいますが、資産にはどのようなものがあるでしょうか。まず、「金融資産」「非金融資産」に分けて考えてみましょう。

「金融資産」とは、要するに、お金、もしくは、お金に換算した価値を計算することができ、すぐにお金に換えることが可能なもの、を指します。現金や預金、それに準ずるもの(手形や有価証券等)のほか、「まだ受け取れていないけれど、これからお金を受け取ることができる権利」も、金融資産の一種です。たとえば、ひと仕事終わって、売上が立ったものの、まだその代金を受け取れてない場合、「売掛金(うりかけきん)」という名前の「金融資産」を持っていることになるのです。いずれ、お金を受け取れることになるわけですからね。立派な金融資産です。(なお、本業のビジネスとは関係のない出来事を通じて、お金をいずれ受け取ることができる権利を得た場合、そうした権利は「未収金」と呼び、「売掛金」とは区別して記帳していきます。)

それでは、「非金融資産」とはどんなものでしょうか。事業を動かしていくために必要な、設備や機械・道具などのうち、高額なものは、立派な「非金融資産」となります。資産のうち、金融資産に該当しないものは、非金融資産です。「商品(棚に積みあがっている在庫のイメージで「棚卸資産」と呼びます)」のように、売れない限りお金には変わらないけれど、事業を動かしていくために必要なもので、いずれ収益の発生につながるようなものも、非金融資産として認識していきます。

この、「金融資産」と、いずれ「金融資産」の獲得に貢献してくれるもの(すなわち「事業上の価値があるもの」)としての「非金融資産」の合計が、事業に関するプラスの財産のすべてです。

 ● 「マイナスの財産」――「負債」とは

ところで、いずれあなたの財産を減らすことにつながるなんらかの義務を背負っている場合、その金額をしっかり把握しておかなければ、純粋な意味での財産の金額を正確に把握することはできません。こうした、「いずれあなたの財産を減らすことにつながるなんらかの義務」、いわばマイナスの財産を、「負債(ふさい)」と呼びます。いちばんわかりやすいのは、銀行などからお金を借りて、いずれ返済しなければならない場合がありますね。これは「借入金」と呼ばれる典型的な負債です。「借入金」のほかにも、さまざまな種類の「負債」があります。たとえば、事業に必要なものを仕入れたものの、まだその代金を支払っていない場合。その、いずれ支払わなければならない代金のことを「買掛金(かいかけきん)」と呼び、負債として認識しておく必要があります。ただ単に、お金の出入りだけを記録するだけでは、こうした負債を認識することができません。ものを後払いで仕入れた場合には、検収が終わった時に、「仕入を行った」という出来事の記録とともに、(それによって)「負債が増えた」という記録を同時に行う必要があるのです。そのほか、本業の流れとは別にモノやサービスを購入した場合の代金がいまだ未払であるような場合には、その代金を「未払金(みばらいきん)」という負債として認識しておかなくてはなりません。このほか、こちらがモノやサービスを提供する前に受け取ったお金は「前受金」、モノやサービスの提供とは関係なく他者から預かってしまっているお金は「預り金」として、負債を認識しておかなければなりません。

 ● 資産から負債を差し引いた残りが「純資産」

こうして、「資産」と「負債」をもれなく洗い出して記録して、「資産」の合計額から「負債」の合計額を差し引いた残りが、純粋な、あなたの事業に帰属する資産の額、すなわち「純資産」の金額となります。「預金がこれだけあるから大丈夫!」などと安心していたら、「いずれ支払わなければならないお金」が大きく膨らんでいて、差し引いてみたら、実質の純資産がマイナスだった、なんてことになっていたとしたら、笑えませんよね。常に、「純資産」の金額を意識しながら、事業を回していかなければなりません。なお、このように、「差し引いてみたら、実質の純資産がマイナスだった」という状態を「債務超過(さいむちょうか)」と呼びます。債務超過状態に陥ってしまったとしても、(緊急融資を受けるなどして)当面の資金繰りを行うためのお金を確保し、支払いを続けていくことができる限りは、事業を継続していくことができるわけですが、財産の状態としてはトータルで見てマイナスなわけですから、いずれ、これをプラスの状態に戻していかなければ、健全に事業を継続することは不可能になります。ですから、経営の要は、「今、トータルで見て、純資産はいくらなのか?」を正確に把握することに尽きます。そのためには、複式簿記の方式で、日々の事業に関する出来事を、漏らさず正確に記録し続けていくことが必要なのです。

 ▼2: 財産の変化を正確に捉えよう

 ● 資産の増加、負債の減少につながる動き ―― 「収益」を認識する

ここまでで、事業上の財産の全体像を認識する方法を見てきました。ここからは、財産の変化をとらえる方法について解説していきます。「財産」、すなわち「資産」や「負債」は、どのようにして変化していくのでしょうか。その変化を、どのようにして把握していけばよいのでしょうか。

まず、財産にプラスの変動をもたらす動きを漏れなく記録していく必要があります。これを「収益」と呼びます。

「収益」の代表的なものは、もちろん、本業から得た収入、すなわち「売上」ですね。ここで重要なことは、まだ「お金を受け取っていない」状態でも、「お金を受け取れる権利を得た」時点で、「売上」として認識する、ということです。きちんと仕事を終えたタイミングでもって、(仮にまだ代金を受け取れていなかったとしても)「売上」を記録して、「お金を受け取れる権利(=売掛金)」という資産が増加した、ということを記録するわけです。そして、後日、きちんと代金を受け取ったタイミングで、「お金を受け取れる権利(=売掛金)」という資産が、実際に「現金(ないし預金)」といった資産に「置き換わった」ということを記録するわけです。

このように、お金を受け取れる権利が正式に確定した時点で売上を認識する方法「実現主義」と呼びますが、それに対して、実際にお金を受け取った時点で売上を認識する方法「現金主義」といいます。「現金主義」による経理は、単純にお金の出入りを記録するだけで済みますから簡単です。ですが、それでは、正確に財産の変動を捉えることができません。したがって、青色申告を行うためには、実現主義に基づいて収益を認識して経理を行うことが必要になります。つまり、お金を実際に受け取っていなくても、「収益」が発生したのだ、ということを認識して、記録しなければならないわけです。そのためには、まず、どのようなときにどのような収益が生まれるのかをしっかりと理解しておく必要があります。そのうえで、日々の事業を進める中での出来事(「いつ、何をしたのか」)をていねいに記録しておき、「収益の発生」につながる出来事が起きなかったかどうか、常にアンテナを立てておく必要があるのです。

「収益」、すなわち、財産にプラスの変動をもたらす動きには、「売上」ではないものもあります。本業に関連して生じたイレギュラーな収入である「雑収入」も、「収益」です。2021年(令和2年分)確定申告において、持続化給付金や家賃支援給付金を「雑収入」として計上したフリーランスの方も多いのではないでしょうか(参考|Wor-Q Magazine 特集第1号 コロナ禍で苦しむフリーランスの方々のための「2021年/令和2年分確定申告」お役立ち情報)。

他にも、銀行に預けておいたお金から生まれる「受取利息」や、保有していた有価証券を売却したときに利益が出た場合に生まれる「有価証券売却益」なども、「収益」です。

 ● 資産の減少、負債の増加につながる動き ―― 「費用」を認識する

そして、財産にマイナスの変動をもたらす動きももれなく記録していく必要があります。これを「費用」と呼びます。

財布からお金を出して消耗品を買った場合には、「消耗品費」という費用を記録すると同時に、「現金」という資産がマイナスになったことを記録する必要があります。銀行口座からの自動引き落としによって電気代を支払った場合には、「水道光熱費」という費用を記録すると同時に、「預金」という資産がマイナスになったことを記録する必要があります。

ここでも重要なことは、「お金が出ていった時だけが費用計上のタイミングではない」ということです。実際の支払がまだ先でも、もうすでにモノやサービスの提供を受けた場合には、「費用」を立てて、「買掛金」「未払金」という「いずれ支払わなければならないお金(=負債)」を、じぶんの事業の負債として、その時点で認識しておかなければならないわけです。すでに負債というマイナスの財産が発生してしまっているわけですから、まだお金を支払っていなくても、その時点で、「費用が発生した」ことになるのです。こうした考え方を「発生主義」といいます。

逆のパターンがあります。お金を払ったとしても、その全額を費用として認識できない場合です。たとえば、何年にも渡って事業で使用するような事業用資産(不動産、設備・機械・道具など、高額なもの)を購入した場合を考えてみましょう。分割払いで支払うのでなければ、お金は一度に出ていくわけです。ですが、その事業用資産は何年にもわたってあなたの個人事業で使われるものであって、その期間を通じて、あなたの事業が収益を生み出すための大切な基礎になるものであるわけです。「自分の個人事業は、トータルでみて、収支(プラスマイナス)いくらで、結果的に、自分の個人事業にかかわる財産を増やすことにつながっているのか、減らすことにつながってしまっているのか?」を正確に把握するためには、収益をあげるために必要な費用を、収益をあげるために活用できる期間に応じて正しく分割して認識していく必要があるわけです。この考え方を「費用収益対応の原則」といいます。たとえば5年使える機械であれば、機械の購入に要したお金を5分割して、1年に1分割分、5年間を通して、段階的に、費用を認識していくわけです(※より厳密には月割りで計算します)。ところで、実際に、その機械を何年使えるのかなんて、わからないものです。そこで、経理・税務上は、あらかじめ定められた「耐用年数(たいようねんすう)」で割って、毎年の費用を計算していくことになります。このように、事業用の資産を、「少しずつ、その利用価値が減少していくのに応じて、経理上の価値を減らしていって(=償却して)、その減らした額を、その年の費用とする」ことを、「減価償却(げんかしょうきゃく)」と呼びます。高額な事業用資産(不動産、設備・機械・道具など、高額なもの)を使用しないでビジネスをする場合には、減価償却を行う必要は出てきませんから、安心してください。

「費用収益対応の原則」によって、ほかにも、注意が必要な取引があります。まず、複数年にわたって便益の提供を受けることができる権利を得るための代金を、一度に支払った場合を考えます。たとえば、複数年にわたる補償を受けることができる高額の保険料を一括で支払った場合などが考えられるでしょう。このような場合においても、ある年に支払った金額を、そのまま全額、その年の費用として計上したのでは、「自分の個人事業は、トータルでみて、収支(プラスマイナス)いくらで、結果的に、自分の個人事業にかかわる財産を増やすことにつながっているのか、減らすことにつながってしまっているのか?」を正確に把握することができなくなってしまいます。そこで、このように先々の分まで前払で支払った費用は、「前払費用」という「資産」として認識するのです。先々のぶんまで先に払っているわけですから、立派な「資産」なのです。もう、お金を払わなくても、サービスを受ける権利が得られているのですから。そして、毎年毎年、その年の分の費用分だけを、月割で、費用として認識するのです。費用として認識した分の金額は、その金額分、「前払費用」という「資産」の金額から減らしていきます。

このほか、「繰延資産」と呼ばれるものもあります。個人事業主にとっての「繰延資産」として代表的なものに、「開業費」があります。「開業費」とは、個人事業を立ち上げてから、実際に営業を始めるまでの間の準備に要した費用のうち、先々までその効果が見込まれるもの、を指します。印鑑を作ったり、名刺を作ったり、外注してWebサイトを作ってもらったり。そうした、「個人事業の立ち上げ後に特有な、営業を始めるために必要なお金」です。支払ったお金の対価としてのモノやサービス(印鑑や、名刺や、Webサイト)はすでに完全に完成しているわけですが、「収益の獲得に対する効果」という意味では何年も後まで長期に渡って享受できるものです。そのため、一度に費用として計上するのではなく、「繰延資産」という資産として認識をして、定められた年数に応じて、減価償却をしていくのです。(「減価償却費」という費用として、認識をしていくのです。)

 ▼まとめ: 「財産の状況」と「財産の変化」の「ふたつの側面」で事業の全体像を把握する

そろそろしんどくなってきたかもしれませんね。でも、経理の全体像は、ここまでです!もちろん、より細かなルールはたくさんありますが、大きくは、このような構造になっています。「いま、自分の事業にかかわる財産の状況はどうなっているのか?」ということと、「自分の事業は、トータルでみて、収支(プラスマイナス)いくらで、結果的に、自分の事業にかかわる財産を増やすことにつながっているのか、減らすことにつながってしまっているのか?」ということを正しく認識するために、

・資産や負債にプラスマイナスの影響を及ぼす収益や費用を(収益費用対応の原則に従って)しっかり記録して
・そうした収益や費用の影響をふまえたうえで、結果的に、ある時点での資産と負債の金額がいくらであるのかをしっかり把握できるようにする

だけなのです。この2側面をしっかりと把握できるようにするために、ある取引が、資産や負債にどのような影響を及ぼす取引であるのかをあわせて記録する「複式簿記」の方法で記録をしていく、ということです。これだけのことです!

  実践編1: 経理の流れの全体像を理解しよう

おおまかな構造が理解できていれば、実際の経理作業の流れは格段に理解しやすくなります。ここからは、実際に、どうすれば、「財産の状況」と「財産の変化」を正確に把握していくことができるのかについて見ていきましょう。

 ▼1: 財産の状況を管理しよう

 ● いちばん大事なのは現預金の管理

経理の基本は、なんといっても、まず、現預金の管理です。残高はいくらか。いつ、どのような出入金があったか。こうした現預金の動きをしっかり管理しなければなりません。簡単なようですが、工夫もいります。普段から使っている銀行口座で個人事業に関するお金のやりとりをしていると、いったいどれが個人事業に関するお金の動きで、どれがそうではないのかがわかりにくくなってしまいます。

個人事業に関するお金の動きだけを正確に管理するためには、個人事業用の銀行口座をしっかりと作っておくことが大切です。詳しくは、Wor-Q MAGAZINE 特集第4号「フリーランス1年目をどう生きるか」「お金を動かす準備をしよう ~頼れる銀行に口座を開こう~」のパートをご覧ください。個人事業用の銀行口座を作っておくことで、預金の管理がしやすくなるばかりか、(融資枠を準備しておくことで)万が一の際に事業用資金の借り入れを受けることもできるようになります。

経理作業をスムーズに進められるかどうかは、個人事業用の銀行口座のオンラインバンキング機能がどれくらい充実しているかに大きく左右されます。口座のお金の出入金履歴を、手動で帳簿にすべて転記しなければならないとなると大変です。出入金履歴を、CSV形式など、エクセルに取り込みやすい形式で簡単に取得できるかどうかがポイントです。銀行によっては、出入金履歴を取得できる期間が短い銀行もあります。口座を開設する前にしっかりと調べて、オンラインバンキング機能が充実した銀行を選ぶようにしましょう。(なお、将来的に会計ソフトを利用することを想定している場合には、そうした会計ソフトと自動連携可能な銀行かどうかの確認もしておくとよいでしょう。自動連携を行えば、銀行取引をすべて自動的に記帳してくれます。)

オンラインバンキング機能を使ってCSV形式で出入金履歴を取得することができれば、それを、「預金出納帳」に転記するだけで、お金の動きをしっかりと記録していくことができます。「預金出納帳」のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、どうぞご活用ください。(経理作業を楽にするために、できるだけ現金を使わない、というのもコツです。現金の出入りを記録するには、「預金出納帳」と同じような形式の「現金出納帳」を用意して、別途、記帳しなければなりません。その手間を極力減らしていくためにも、事業用の銀行口座からの振り込みや、事業用のクレジットカードを作成してカードで支払をするような形に集中させたほうが便利です。念のため、「現金出納帳」のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、どうぞご活用ください。)

「預金出納帳」に記帳する際のポイントは、「科目」の欄です。お金の出入金が、なぜ起きたのか?その理由を、「科目」の欄に記入する必要があります。経理の用語では、これを「勘定科目」と呼びます。経費(費用)としてお金がでていった際には、経費(費用)に関する勘定科目の中から最も適したものを選択して記入します。青色申告決算書において標準的に用意された「代表的な」経費(費用)に関する勘定科目には、以下の項目があります。

租税公課/荷造運賃/水道光熱費/旅費交通費/通信費/広告宣伝費/接待交際費/損害保険料/修繕費/消耗品費/減価償却費/福利厚生費/給料賃金/外注工賃/利子割引料/地代家賃/貸倒金

逆に、入金があった場合には、なぜ入金があったのか、適した科目を選んで記入します。売上(収入)として入金があった場合には「売上」と記入します。「売上」によって発生した「代金を受け取る権利」である「売掛金」に関して実際に入金があった場合には、「売掛金」と記入します。

事業用の預金残高が少なくなってしまって、仕方なく、事業主であるあなた自身が、あなたの生活用の銀行口座からお金を補充した場合にはどうでしょうか?事業主であるあなたからの借り入れ、という意味合いで、「事業主借」と記入します。(逆に、個人事業で稼いだお金を、事業用の銀行口座から生活用の銀行口座に振り替える場合には、出金の理由として、科目欄に「事業主貸」と記入します。個人事業主の会計において、「事業主借」「事業主貸」の科目は非常に重要です。)

まずは、このようにして現預金の動きをしっかりと記録し、できれば月単位で、「勘定科目ごとに」どれだけの出金と入金があったのかを集計して表にしておき、今後の出入金の見通しもまとめておくと便利です。万が一、個人事業用の銀行口座の残高がなくなってしまい、本来支払うべきお金を支払うべき期日に支払えなかったとしたら、信用問題となります。常に先々の見通しをしっかりと把握したうえで、現預金が不足しないよう、資金繰りを入念に行うことが重要です。これが、フリーランスとしての経営管理のキホンのキです。

 ● 貴重な財産である固定資産をしっかり管理する

何年にもわたって事業のために使用され、収益を生み出すことにつながる資産のことを、「固定資産」と呼びます。簡単にはお金に換えられないので、「固定資産」と呼ばれます。(逆に、1年以内にお金に換えることができたり、1年以内に費用化されて帳簿上の価値が失われてしまったりするような資産は「流動資産」と呼ばれます。)

不動産、設備・機械・道具などの形のある固定資産(「有形固定資産」と呼ばれます)だけでなく、ソフトウェアなどの形のない固定資産もあります(「無形固定資産」と呼ばれます)。個人事業において登場することはあまりないでしょうが、固定資産のなかには、金融資産としての価値を持つものもあります。事業に関連した長期貸付金や、長期保有を前提とした投資有価証券等です。そうしたものは「投資その他の資産」に分類されます。

固定資産のうち、時間の経過とともに価値が減少していってしまうものは、前のセクションで見たとおり「減価償却」の対象となり、何年かにわけて費用化していかなければなりません。そのためには、そうした固定資産を、「いつ購入して」「どのような方法で減価償却をして」「いままでどれだけの金額の減価償却を行って、現在、どれだけの帳簿上の価値があるのか」ということを、しっかりと記録しておかなくてはなりません。このために使用するのが「固定資産台帳」です。固定資産台帳のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、参考にしてみてください。

減価償却の方法の詳細は、以下、国税庁のウェブサイトなどを参考にしてください。

 ● 現預金の管理と固定資産の管理は比較的簡単

ここまでで見てきた「現預金の管理」と「固定資産の管理」は比較的簡単です。現預金の動きは、出入金をしっかり記録しておけばよいだけです(現金の「出」については、必ず「レシート」「領収書」を受け取って保管することを忘れないようにしましょう。なお、紙で受け取った「レシート」「領収書」については、長期に渡って保管する中で色褪せて読み取りにくくなってしまうこともありますから、スキャンして電子データでも保管しておくと、より安心です。現金の「入」についても、できるだけ、自分で「領収書」を作成して相手方に提出するようにし、その控えを保管しておくことです。こうした、「レシート」や「領収書」のやりとりを行えなかった取引に関しては、文具屋さん等で市販されている「出金伝票」「入金伝票」に、いつ、なんのための出入金が発生したのかを記録して保管しておけば十分です)。

固定資産の管理も、そんなに手間がかかるものではありません。取得時に、固定管理台帳に記入して、減価償却の方法を定めておくだけで、あとは、年に1回、決算のタイミング(確定申告のタイミング)で、減価償却を行って、関連した経理処理を済ませるだけで済みます。

 ● 証憑の保存だけはしっかりと ―― フリーランスにとっての「改正電子帳簿保存法」

比較的簡単、とはいえ、正しく記録を行っていることの証拠(=これを「証憑(しょうひょう)」と呼びます)の管理については、注意深く確実に行わなければなりません。

2022年1月の「改正電子帳簿保存法」施行によって、従来、紙で長期間保管することが義務つけられていた「レシート」や「領収書」について、(タイムスタンプ処理を行う等の)必要な要件を満たせば、電子化したデータで保管するだけでもよくなりました(もちろん、紙で保存しておくほうが楽だ、という場合には、それでも(いままでどおりの保存方法でも)問題ありません)。

ところで、最近では、リモートで、銀行振込やクレジットカードで決済を行い、電子メール添付・システムからのダウンロードといった形式で、請求書や領収書のやりとりがされることも増えてきています。これらの電子データも、データが添付されたメールなどがバラバラに散逸されている状態ではだめで、きちんと体系的に電子データを保管しておくことが必要になります。(「令和5年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば差し支えない」ことになっています。令和6年1月からは、保存要件にしたがった電子データの保存が必要となります。)

詳しくは、国税庁の関係ウェブサイトをご覧ください。

※個人事業主の「請求書等の電子データの保存」に関しては、問12が参考になります。(問12「妻と2人で事業を営んでいる個人事業主です。取引の相手方から電子メールにPDFの請求書が添付されて送付されてきました。一般的なパソコンを使用しており、プリンタも持っていますが、特別な請求書等保存ソフトは使用していません。どのように保存しておけばよいですか。」)

改正電子帳簿保存法の施行に関して不安を感じておられるフリーランスの方も多いかと思いますが、なんであれ、「受け取ったもの、発行したもの問わず、あらゆるデータ(紙であれ、電子ファイルであれ)の原本を、整然と(探したいときにすぐに見つけられる状態に)整理しておく」ことを、とにかく徹底しておくことです。

 ● それ以外の資産の管理は、日々の事業の記録とともに管理する

ここまでで見てきたように、(証憑の管理さえしっかりしておけば)現預金の管理と固定資産の管理は比較的簡単です。いっぽう、日々の事業を通じて発生するさまざまな資産・負債(誰かからお金を受け取る権利であるところの「債権」、誰かにお金を支払わなければならない義務であるところの「債務」)の管理は、大変です。日々の事業の動きを通じてどんどん変動していくものだからです。まず、日々の事業の動きをきっちりと記録する方法から、しっかりと学んでいきましょう。

 ▼2: 財産の変化を管理しよう

日々の事業の動きをきっちりと記録するといっても、「収益(売上)に関する流れをしっかり記録する」ことと、「費用に関する流れをしっかり記録する」ことのふたつをしっかり行っていけば大丈夫です。順に説明しましょう。

 ● 収益(売上)に関する流れをしっかり記録する

前のセクションで説明したとおり、青色申告を行うためには、売上について、実現主義に基づいて、記帳していく必要があります。すなわち、「売上が確定したタイミングで」、複式簿記の方法によって、売上と、売上の確定によって発生した財産の変動のふたつを、記録する必要があるのです。

これらを正確に記録するためには、お金の流れだけを見ているだけでは不十分です。「いつ、何が起きたのか」、仕事の流れを、しっかり記録していかなければなりません。まず、仕事の依頼を受けたら、「売上管理表」に、仕事の内容を記録します。売上管理表のサンプル(Excel)を用意しましたので、参考にしてみてください(いくつかのシートが含まれていますが、「売上管理表」のシートを閲覧してください)。

まず、「売上管理表」のシートに、いつ、正式に仕事を受注したのかを記録します。詳細条件もすべてひっくるめて、先方が仕事を頼む意思表示をして、こちら側も受ける意思を表示したタイミングが、契約の締結日となります。契約書を取り交わす場合には、契約書の内容について双方の合意が完了し、その日付を契約書の締結日付としますが、その日付を記録しておきます。

「よし!正式に受注できたし、これで10万円の売上が立った!」とはなりません。売上の計上は、厳密に行う必要があります。仕事を受注した後、無事に頼まれた仕事が完了したら、その日付も売上管理表に記録します。そして、先方から「OKだよ(契約に定められた内容が満たされているから、こちらも対価を払う意思があるよ)」という意思表示をもらったら、その日付も売上管理表に記録します。この、先方から対価を払う意思の表示を受けたタイミングをもってはじめて「売上」が確定するのです。これが「実現主義」と呼ばれる方式です。

売上が確定したら、ただちに、請求を行います。そのためにも、請求金額をはっきりさせなければなりません。請求すべき金額は、仕事の対価としての報酬金額本体に、消費税を加算した金額です。また、源泉徴収を受ける場合には、源泉徴収税額を引く必要もあります。こうした、請求金額の詳細の算定は、通常、仕事を発注する側が行うべきものです。そして、本来は、契約の締結時に、このレベルの詳細な請求予定金額が明確になっているべきです。しかるべきタイミングでしっかりと、請求金額の詳細を取引先との間で合意し、その金額を、売上管理表にしっかりと記録します。青色申告においては、取引先ごとに売上金額の合計と源泉徴収税額の合計を集計して記入する必要がありますから、その意味でも、このような明細を作成しておくと楽です。

請求のタイミングが来たらその金額を書き込んだ請求書を作成し、先方に提出します(特に定めがなければ、売上の確定後、早めに請求書を提出してしまいましょう)。請求書のサンプル(Word)も用意しておきましたので、参考にしてみてください。その、提出した日を「請求日」として、売上管理表に記入しておきます。これによって、「請求漏れ」を防ぐことができます。発行した請求書に付した「請求書番号」も、売上管理表に記入しておくとよいでしょう。支払形態についても記入をしておき、支払形態に即した相手勘定科目も記入しておきます。

なお、令和5年(2023年)には、「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」がスタートすることとなっています。「適格請求書とは何ぞや」に関する詳細は、Wor-Q Magazine特集第2号「フリーランスとして生き延びていくための「消費税/インボイス制度」徹底解説」をご覧ください。

最後に、売上に関する「仕訳」を行います。「売上に関する仕訳」のシートを参照してください。「仕訳」とは、複式簿記の用語で、取引のふたつの側面を左右に分けて記録することをいいます。左側を「借方(かりかた)」といい、資産の増加、費用の発生、それから、負債の減少は借方に記入します。右側を「貸方(かしかた)」といい、負債の増加、収益の発生、それから、資産の減少は貸方に記入します。何かが起きた時には、必ず、同時に、なんらかの会計的な動きが起きています。そのふたつをセットにして、借方と貸方に記入していくのです。そして、このように記入を積み上げていくと、必ず、左右(借方と貸方)すべての合計が一致するようになるのです。これを「貸借一致の原則」といいます。これにより、すべての簿記的取引が正しく記帳されているかが確認できる、というわけなのです。

売上のうち、源泉徴収税額を除いた金額については、いずれお金を受け取ることができる金額となりますから、相手勘定として「借方」に「売掛金」と記入して、仕訳を行っておきます。(消費税額を含みます。なお、本特集においては、説明を簡便に行うため、税込経理方式とし、消費税については詳細の記述を割愛しております。消費税に関する処理・手続に関する詳細の情報は、Wor-Q Magazine特集第2号「フリーランスとして生き延びていくための「消費税/インボイス制度」徹底解説」をご覧ください。)

いっぽう、源泉徴収税額については、本来、いずれ自分が支払うべき所得税を、発注者の側が代わりに差し引いて、代理で納税する制度ですから、相手勘定として「借方」に「事業主貸(より細かく「仮払源泉税」とすることも可です)」と記入して、仕訳を行っておきます。個人事業の会計の立場から見れば、これは、事業主であるあなた自身に対する「貸し」となるからです。

そのうえで、「売掛帳」を作成します。「売掛帳(A社)」のシートを参照してください。これは、取引先ごとに売掛金の金額がいくら残っているのかを正確に把握するための表です。取引先1社ごとに1枚のシートで管理していきます。売掛金についても仕訳をします。「売掛金に関する仕訳」のシートを参照してください。売掛金の発生の際の仕訳はすでに切ってありますから、売掛金の入金があった際に、仕訳を切るだけで大丈夫です。売掛金という資産が減少しますから、それを右側(貸方)に。同時に、預金という資産が増加しますから、それを左側(借方)に記入します。それだけです!同時に、「売上管理表」のシートにも、入金の確認が取れたことを記録しておくと、より確実です。

売掛金の管理に関して、重要なことがあります。それは、入金があったかどうかを、あなた自身がしっかり確認しなければならない、ということです。入金後(支払後)に丁寧に連絡をくれる取引先もありますが、そういう取引先ばかりではありません。「請求もしっかりしたし、大丈夫!」と思っていたら、振り込まれていなかった、ということもありうるのです。ずいぶんと月日が経った後に、「あれ?振り込まれてないぞ?」ということに気が付いたとしても、トラブルとなりかねません。入金予定日に、速やかに、入金の有無を確認すべきです。もちろん、こちらが請求した以上、期日までにしっかりと代金を支払うのは支払う側の責任ですが、防衛のために、あなたのほうでもしっかりと入金の有無(金額も!)を確認するようにしましょう。そう、「売掛金を回収するまでが、ビジネス」なのです。

 ● 費用に関する流れをしっかり記録する

さあ、もう、折り返しです。あとは、費用に関する流れをしっかり記録するだけです。費用、といっても、フリーランス(個人事業主)の方の場合、モノを仕入れて、それを販売するような形式の商売を営んでおられる方は少ないでしょう。もしも、そのような仕入販売業を営んでおられる場合には、売上管理と同じような、仕入管理が必要になります。「いつ、だれから、何をいくらで仕入れたか」「その代金を、いつ、支払ったか」。仕入先ごとに、「買掛帳」も作って、買掛金の残高管理もしていかなければなりません。ですが、そうした仕入が発生しないタイプの事業を営んでいる場合には、事業を通じて発生する、いわゆる「経費」を記録していくだけで済みます。この「経費」を管理するための表が「経費帳」です。経費帳のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、参考にしてみてください。

経費帳には、費用の発生と同時にーーそう、「お金を支払ってモノやサービスの提供を受けたタイミング」だけではなく、「モノやサービスの提供を受けたので、いずれ、お金を払わなければならないことになったタイミング」で、記帳していきます。「発生主義」の考え方ですね。相手勘定科目の欄に、現金によって支払を行った場合には「現金」、預金から支払を行った場合には「預金」と記入します。(なお、クレジットカード決済や、「後日銀行振込」というような形で後払いとなる場合には、費用の発生と同時に「いずれ支払わなければならない義務」が負債として発生したことになりますので、「未払金」と記入します。「未払金」が発生した場合には、「未払金」の残高も別途しっかりと管理していく必要が出てきます。)

なお、ここで、「現金で支払った経費」は「現金出納帳」と、「預金から支払った経費」は「預金出納帳」と突合することで、経費の記帳漏れを防ぐことができます。費用に関する記録は、ここまでです!

 ● 現預金、固定資産以外の財産の状況は、収益と費用の流れをしっかり記録することで結果的に管理できる

ここまでで見てきたとおり、「収益(売上)に関する流れ」と「費用に関する流れ」をしっかりと記録することで、結果的に、日々の事業を通じて発生する「売掛金」「買掛金」「未払金」といった、「いずれお金を受け取れる権利」や「いずれお金を支払わなければならない義務」の金額についても管理できることになるのです。

重要なことは、日々、あなたの事業にまつわるあらゆる出来事を、緻密に記録しておくことです。「いつ、何をしたのか」。お金の出入りが伴わない出来事でも、全部記録しておくことが大切です。証憑もしっかり保管しておきます。こうした記録は、経理や確定申告のために必要、というだけでなく、あなたの事業をスムーズに進めていくための力強い支えにもなります。「いつ、何をしたのか」をきっちり記録し続けていくことで、自信をもって、仕事を進めていくことができるようになるでしょう。

  実践編2: 決算と確定申告の流れの全体像を理解しよう

 ● はじめに:シンプルに考えましょう

ここまでで、日々の経理作業の流れの全体像の解説は終わりです。あとは、会計年度が締まったら、一年分の取引を整理・集計して、「決算書」の形にまとめて、確定申告をするだけです。個人事業主の場合、毎年12月31日が事業年度の締日となります。翌年の3月中旬までに、作成した決算の数字とともに、確定申告を行う必要があります。

恐れることはありません。ここまでの流れに沿って、「財産の状況」と、日々の事業活動を通じた「財産の変化」についてしっかりと記録していれば、あとは、集計するだけのことです。難しいことはありません。もちろん、事業が大きくなって、複雑になっていったときには、特殊な処理を行わなければならなくなります。ですが、決算と確定申告の基本的な仕組み自体は大変シンプルなものです。

ここでは、以下のような、「令和3年のはじめに、ごくシンプルな構造の個人事業を立ち上げたばかりのフリーランスの方にとっての、はじめての確定申告(青色申告)」を例にとって、令和3年分の決算と確定申告の流れを整理してみます。

(例)
① 令和3年のはじめに、事業用銀行口座に、元手となる事業用の資金として150万円をいれた。なお、途中、令和3年の6月末に、生活資金が足りなくなったため、事業用の口座から130万円を生活口座に送金した(「事業主貸」)。その際、振込手数料165円が発生した。
② 令和3年のはじめに、事業のためだけに使用している高額な設備を80万円で取得した(デビットカードで預金から即時決済)。令和3年からの4年間で、毎年20万円ずつ、定額法で減価償却していく。
③ 令和3年分の売上は、特定の取引先A社から、毎月月末を取引先の検収日として、消費税込33万円を計上しているのみ。翌月末に、銀行口座に入金してもらっている。源泉徴収は受けていない。
④ 令和3年における、毎月必ず発生する経費(「固定費」と呼びます)は、毎月、自宅とは別に借りている事務所の当月分家賃6万6千円(消費税込)を、月初に、預金からの銀行口座振込で支払っているのみ。この振込に関しては、同行間の回数限定振込手数料実質無料サービスを受けられるため、振込手数料は発生しないものとする。
⑤ 令和3年における、固定費以外の出費として、12月15日に、事務所の大掃除のため、事務所用の電球等こまごました消耗品類一式22,000円(消費税込)を事業用クレジットカードで購入した。その分の代金の預金からの引き落としは、令和4年1月27日に行われる予定だ。

これら①~⑤までの取引が、すべて、ここまで解説してきた各種の管理表に正しく記録されていることを前提とします。この、管理表に記録されたデータに基づいて、まず、すべての取引を仕訳帳に転記していきます。(なお、管理表への記録と並行して、リアルタイムで仕訳を立てておくことが原則です。)

 ● 仕訳帳の記入方法

仕訳帳のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、参考にしてみてください。仕訳については「売上管理表」のセクションで簡単に解説しましたが、ここにも再掲しておきましょう。

仕訳とは

仕訳とは、複式簿記の用語で、取引のふたつの側面を左右に分けて記録することをいいます。左側を「借方(かりかた)」といい、資産の増加、費用の発生、それから、負債の減少は借方に記入します。右側を「貸方(かしかた)」といい、負債の増加、収益の発生、それから、資産の減少は貸方に記入します。何かが起きた時には、必ず、同時に、なんらかの会計的な動きが起きています。そのふたつをセットにして、借方と貸方に記入していくのです。そして、このように記入を積み上げていくと、必ず、左右(借方と貸方)すべての合計が一致するようになるのです。これを「貸借一致の原則」といいます。これにより、すべての簿記的取引が正しく記帳されているかが確認できる、というわけなのです。

仕訳帳は、時系列で記入していきます。仕訳の対象が発生したときに、各種管理表に記入すると同時に仕訳帳にも記入していくのが原則です。

以下、順番に、仕訳の方法を簡単にまとめておきます。同じ種類の取引については説明を省略します。

●「元入金を入れたことによって預金という資産が増加した」。ここから個人事業は始まります。預金の増加を借方に記入し、その増加分が元入金によるものであることを示すために元入金の増加を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル7行目)
●器具・備品を購入したことで預金が減りましたので、器具・備品の増加を借方に記入し、預金の減少を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル8行目)
●家賃を支払ったことで預金が減りましたので、支払家賃の増加を借方に記入し、預金の減少を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル9行目)
●売上の確定によって売掛金という資産が増えましたので、売掛金の増加を借方に記入し、売上の増加を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル10行目)
●実際に売上の対価が振り込まれた場合には、預金が増加する一方で売掛金という債権が減りますから、預金の増加を借方に記入し、売掛金の減少を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル12行目)
●事業用口座(預金)から生活資金を引き出した場合には、事業の会計の目線でみれば、事業主に対する「貸(かし)」である事業主貸という資産が増えたことになりますから、事業主貸の増加を借方に記入し、預金の減少を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル26行目)
●その際、振込手数料がかかって預金が減ることになりますから、支払手数料という費用の増加を借方に記入し、預金の減少を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル27行目)
●消耗品をクレジットカードで決済した場合には、消耗品費という費用を、未払金という負債の発生によって賄ったことになりますから、消耗品費という費用の増加を借方に記入し、未払金の増加を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル44行目)

なんと、1年間で、これだけなのです!こうして、仕訳帳サンプル46行目までのとおり、コツコツと、借方と貸方に取引を記入していきます。このように、常に、「相手勘定科目」とセットで「複式」で記帳しておけば、「いつ、なんで、なにが起きたのか」がはっきりとわかりますね。

さあ、ここからは決算です。1年が終わり、年が明けたら、すぐに決算作業に取り掛かりましょう。確定申告をスムーズに終わらせるには、とにかく早い時期に決算を終わらせてしまうことです。決算をして数字を整理することで、1年間の経営を振り返り、改善につなげることもできます。

まず、決算時特有の仕訳処理を行います。1年に1度、減価償却を行います。器具・備品という資産の帳簿上の価値を、1年分減少させます。減価償却費という費用の増加を借方に記入し、器具・備品の減少を貸方に記入します。(仕訳帳サンプル47行目)

決算を行うために必要な仕訳は、いったん、ここまでです。

 ● 総勘定元帳の記入方法

ここまでで、すべての取引が仕訳帳に記録されていることになるわけですが、仕訳帳というのは時系列に取引を記録したものですから、「期末時点で、財産の状況がどうなっているのか?」「結局、一年を通じて、収益と費用はいくらだったのか」を把握するには不便です。そこで、すべての勘定科目について、ひとつひとつ個別に「集計」するための表が、総勘定元帳と呼ばれるものです。総勘定元帳のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、参考にしてみてください。

なんのことはない、仕訳帳から、ひとつひとつ科目ごとに転記してまとめただけの表です。これによって、「資産」「負債」については、「期末時点における残高」がわかります。「収益」と「費用」については、「1年を通じての累計」がわかります。

ここまで終わったら、もう、決算は半分終わったようなものです。

 ● 残高試算表の作成方法

総勘定元帳によって、各科目の集計が終わりました。それらをまとめて整理するための表が、残高試算表です。決算書を作るためのもととなる重要な表です。残高試算表のサンプル(Excel)を用意しておきましたので、参考にしてみてください。いくつかシートがありますが、「残高試算表」のシートを参照してください。

これも、実際のところ、単純なのです!まず、総勘定元帳から、資産に関する科目の「期末残高」の数字を、「資産の部」に転記していきます。負債に関する科目の「期末残高」の数字を、「負債の部」に転記していきます。この時点では、「純資産の部」に、期初時点での元入金の数字をいれておきます(※元入金は、事業主であるあなたが、自腹を切って、事業のために入れたお金を指します。元入金の金額は、決算が終わったら、1年分の精算を行って再計算します。あとのセクションで解説します)。そして、費用に関する科目の「累計」の数字を、「費用の部」に転記していきます。最後に、収益に関する科目の「累計」の数字を、「売上の部」に転記していきます。今回の例においては、「売上」だけですね。

こうして、すべての科目について、総勘定元帳から残高試算表への転記が終わったら、貸借が一致しているかを確認してみましょう。つまり、A+Bの合計と、C+D+Eの合計が一致するかどうかを確認する、ということです。途中で、記入や転記を間違えていなければ、この貸借は必ず一致するのです。

事業というのは、会計的な視点でみれば、資産を増やすために行うものです。「資産が増える」ということは、「①負債が増えたことで、資産も増えた」か、「②収益と費用の差額(すなわち利益)が出たことで、資産が増えた」のどちらか、ということになりますから、「資産」と「費用」を借方、「負債」と「収益」(ならびに、元手と利益を表示する「純資産」)を貸方に置くことで、必ず貸借が一致することになるのです。

そして、この残高試算表における「E-B」の金額が、ずばり、1年間における損益の金額になります。収入から経費を引いた金額を、税務上は「所得」と呼びます。この金額が、確定申告における「青色申告特別控除前の所得金額」にあたる金額となります。

 ● 損益計算書と貸借対照表の作成方法

最終的には、確定申告を行う際に、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」のウェブサイトを通じて正式な決算書(損益計算書・貸借対照表)を作成することができますので、ここでは、その手前で簡単な整理を行う方法をまとめておきます。

損益計算書のサンプル(Excel)を参考にしてみてください。いくつかシートがありますが、「損益計算書」のシートを参照してください。残高試算表から、収益の科目と費用の科目を引っ張ってきて、縦に並べ替えます。そして、差額を、損益としてまとめておきます。この金額が、そのまま、「青色申告特別控除前の所得金額」となります。

なお、この際、仕訳帳においても、「損益振替仕訳」と呼ばれる仕訳を入れておきます(仕訳帳サンプル48行目~52行目)。収益と費用に関する金額の累計額を、すべて、「損益」という、計算用の科目に振り替えて、残高をゼロにしておきます。これによって、次の年度も、ゼロからまっさらに記帳し始めることができます。収益と費用に関する金額の累計額がすべて振り返られた後の「損益」の科目の残高が、当期の損益の金額となります。

貸借対照表のサンプル(Excel)も参考にしてみてください。残高試算表から、資産と負債の期末残高を転記します(そして、振り返って、期首残高も記入します)。元入金の金額も記入し、さらに、損益計算書で計算した「損益」の金額も貸方に記入します。そうすると、ここでも貸借が一致することがわかります。これで確定申告の準備は完了です!

このタイミングで、元入金の精算もやってしまいましょう。仕訳帳に戻り、「損益」の金額を、元入金に繰り込みます。利益が出たので、「損益」を借方に記入し、「元入金」を貸方に記入し、元入金の残高を増やします。この振替によって、「損益」勘定の残高はゼロになりますから、翌期、またゼロから計算できることになります。最後に、「事業主貸」で事業主に支払ったお金の分は元入金から差し引く必要がありますから、事業主貸を貸方に記入し、元入金を借方に記入し、元入金の残高を減らします。これで、元入金の精算もおしまいです。翌期は、精算後の元入金の金額を期首残高として、スタートです(総勘定元帳の「元入金」の科目の欄を見てみてください)。

 ● いざ、確定申告書の作成と提出へ

ここまでできてしまえば、もう、確定申告は9割がた終わったようなものです。国税庁のウェブサイト「確定申告書等作成コーナー」を通じて、ここまでで計算してきた金額を入力して、提出するだけです!難しいことはありません。確定申告マニュアルを用意しておきましたから、よく読んで、進めてみてください。

  おわりに: 基礎を学ぶことが安心につながります

いかがでしたでしょうか。ここまでをしっかり読めば、自分自身で、「①日々の仕事とお金の動きをしっかり記録する」「②1年分の成果を集計する」「③集計した結果を(税務署等に)提出する」方法が理解できたはずです。まずは、おおまかな全体の構造と流れを、自分自身でしっかり理解するよう努めることが大切です。そのうえで、個別の難しいテーマが出てきたときに、専門家に相談することです。なんでも人任せにしていたのでは、個人事業はやがて立ちいかなくなってしまいます。

フリーランスであるあなたは、あなた自身の個人事業の経営者です!自分自身で、事業に関するお金の状況と動きをしっかりと把握して、いつまでも続く、強固な個人事業を作り上げていってください!そして、慣れてきたら、駆け出しのしんどそうなフリーランスを、どうぞ、助けてあげてください!

  付録 

本特集に掲載しております情報は、正確を期すべく、しっかりと確認を行っておりますが、あくまでも参考としてご利用いただきますようお願いをいたします。

構成:旦悠輔(Wor-Q管理人 兼 Wor-Q Magazine編集長)

大学卒業後16年間に渡り大手コンサルティング会社・大手ポータル企業等でIT関係の仕事に従事したのち、フリーランスとして独立。Webサイト運営に関するコンサルティングから、システム設計・開発・運用、コーディング・デザイン、そして中身のコンテンツの企画制作(文章/イラストレーション&グラフィック/写真&映像)に至るまでオールマイティにこなすマルチフリーランサー。個人事業主としての屋号も、「肩書や職種の枠組にこだわらず、課題解決やイノベーションのために必要なことはなんでもやる」という決意をこめて「旦悠輔事務所」としている。当事者(フリーランス)のひとりとして、「フリーランスという働きかた」に関するさまざまな課題を解決に向かわせていきたいという思いをもって、Wor-Qの運営に携わっている。

公開中特集一覧

•特集第11号ハラスメントに絶対負けないフリーランスになる ――すべての働くひとが対等に尊重される社会を目指して――」(2022年4月29日公開)
•特集第10号フリーランスなりたての方のための経理&確定申告総合ガイドー決定版!個人事業経営マニュアルー」(2022年3月4日公開)
•特集第9号50年後も生き残る!フリーランスのためのスキルアップ&キャリアアップ戦略ガイド」(2021年11月9日公開)
•特集第8号決定版!フリーランスのための【契約書の結びかた】徹底ガイド」(2021年10月11日公開)
•特集第7号フリーランスが労災に備えるには -共済・保険について考える-」(2021年9月9日公開)
•特集第6号フリーランスの出産・育児、そして介護を考える」(2021年6月30日公開)
•特集第5号フリーランスの【報酬】を考える~働いたら「報われる」社会を目指して~」(2021年5月31日公開)
•特集第4号フリーランス1年目をどう生きるか」(2021年4月30日公開)
•特集第3号徹底解説!「損害賠償」をしっかり理解して<強いフリーランス>を目指そう」(2021年3月31日公開)
•特集第2号フリーランスとして生き延びていくための「消費税/インボイス制度」徹底解説」(2021年2月28日公開)
•特集第1号コロナ禍で苦しむフリーランスの方々のための「2021年/令和2年分確定申告」お役立ち情報」(2020年12月28日公開)